光技術情報誌「ライトエッジ」No.27/特集 放電ランプ(2004年4月発行)
2.人工光源について
自然光と呼ばれているものは狭い意味では太陽光または太陽光が青空や雲により反射されて地上に届く、いわゆる昼光のことである。一方、広義には特殊な自然光として月明かり、星明かり、稲妻、火炎、生物発光なども挙げられる。
自然光に対し、人工光源は人間が意図して作り出した光源であり、最も代表的なものは電気エネルギーを利用した光源(ランプ)であろう。人工光源の分類法としては幾つかの方法が行われている。例えばq 発光原理によって大分類する方法、w 加熱方法によって大分類する方法、あるいはe 歴史的な出現順序に従って大分類する方法などである。またr 発光物質の相状態に応じて気体、液体、固体の発光として大分類し、その後に発光原理や加熱方法等によって分ける方法も考えられる。
一般には加熱方法による分類と発光原理よる分類はほぼ一致するため、両者を混合した大分類法がよく用いられている。この分類方法に従うと燃焼、電気抵抗加熱(白熱発光)、ガス放電、EL、レーザなどに大分類することになる。この分類法は応用の立場の技術者にはなじみやすい方法であり、また歴史的な出現順序にもほぼ一致している。故に、本稿ではこの方法に従って分類する。なお燃焼光源を自然光源とするか人工光源と考えるかには意見の分かれるところであるが、単なる薪の燃焼は自然光源と考え、十分な加工を施した油灯、蝋燭、ガス灯などの光源は人工光源と考えたい。
図2-1に人工光源のおおまかな分類を示す。燃焼光源は、電気エネルギーを使用した白熱ランプや放電ランプが出現する以前に重用された光源であるが、発光原理的には燃焼熱により炭素粒子(油灯、蝋燭)やセラミック(ガス灯)、ジルコニア粒子(ケミカルフラッシュランプ)が加熱され、白熱発光する現象を使用したものである。油灯はエジプトや中国では約5000年前から実用されていたが(恐らく動物油灯)、現在では油灯(植物油、灯油)や蝋燭は寺院、山小屋などで使用されているだけである。ガス灯も現在では記念品的な使用例が幾つかあるだけである。
炭素を加熱するエネルギーを油の燃焼熱から電気の抵抗加熱に代えたものがエジソンらの発明したカーボン電球(1879年)である。さらに白熱発光する線材(フィラメント)をカーボンより寿命特性の優れたタングステンに代えたものが(1906年)現在使用されている白熱電球やハロゲンランプである。
気体放電を使用した光源である放電ランプのさらなる分類法にも幾つかの方法がある。一般には先ず放電気体の圧力によって低圧放電と高圧放電に分けることが多いが、最初にアーク放電とグロー放電および無電極放電に分ける方法や、発光ガス種に分ける方法も考えられる。ここでは低圧放電と高圧放電に分ける方法に従った。しかし従来の放電では低圧放電ランプと高圧放電ランプは比較的明確な放電特性の違いがあったが、最近では放電特性的にはどちらに属するか迷う放電も出てきた。ここでは封入圧力100 Torr(=13.3 k Pa)で機械的に分けた。また現在、無電極ランプと呼ばれているランプにはマイクロ波放電や高周波誘導放電のような純粋な無電極放電ランプと、バリアー放電とも呼ばれる誘電体を介したグロー放電とも解釈できる放電ランプとがある。
最初に実用化された放電ランプはカーボンアーク灯である(1860年台)。1906年になって水銀ランプが、1930年代にネオンサインや蛍光ランプが相次いで実用化された。
なお、プラズマディスプレイの各画素は超小型の稀ガス(キセノン)蛍光ランプに相当するが、プラズマディスプレイでは始動電圧を下げるためにキセノンガスの分圧を低くしている。その結果、実用的なキセノン蛍光ランプでは波長173nmにピークを持つキセノンエキシマの発光が優勢であり高圧的な特性であるのに対し、少なくとも現在のプラズマディスプレイの放電ではキセノンの波長148nmの共鳴線の発光が優勢になっており、低圧放電的な特性である違いがある。
エレクトロ・ルミネッセンスとは最近では主に固体物質に電圧を掛けることにより発光する現象をいい、さらに交流電圧の各位相に発光する場合を(狭義の)ELと呼び、p-n接合を形成し直流電圧によっても発光するものは発光ダイオード(LED)と呼ばれる。
レーザは気体放電やエレクトロルミネッセンスやフォトルミネッセンス(光刺激により発光する現象)を利用したものがあるが、極めて方向性をもち、位相がそろった光が発光される特長を持っているため大分類の項目とした。
なおフォトルミネッセンスは蛍光体の発光や固体レーザの発光がこれに相当するが、蛍光体は主に放電ランプの紫外線と組み合わされて使用され、また固体レーザはレーザ分類に入れたので、独立した項目とはしなかった。因みにブラウン管(CRT)の蛍光体の発光は電子線刺激による発光であり、カソードルミネッセンスと呼ばれるがランプではない(現在のところ)ので省略した。
ケミカルランプは発光物質と酸化剤の化学反応によって発光するもので、応用は多くないが他の発光機構と異なるため独立の大分類として挙げた。
当社、ウシオ電機(株)は放電ランプを主力製品として生産している光源の専門企業であり、特にキセノンランプ、各種の超高圧水銀ランプ、エキシマランプなどの特殊放電ランプおよびその装置が主要製品になっている。しかし放電ランプの他にも産業用および一般照明用ハロゲンランプや、マーカー用全固体式レーザや炭酸ガスレーザなども開発、生産している。また関連会社のギガフォトン(株)ではリソグラフィ用エキシマレーザを開発、生産している。
(東 忠利)