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光技術情報誌「ライトエッジ」No.27/特集 放電ランプ(2004年4月発行)

3.放電ランプとは

3.1 はじめに

光の技術はエレクトロニクス、メカトロニクス、ディスプレ、ケミカル、バイオ、コミュニケーションなど数多くの分野で、最先端テクノロジーをサポートしてきた。ウシオは創立以来、光の専門企業として、光の創生と応用開発を続け、多くの製品群を世に出してきた。光の主役は明かりが主役であった時代から、光がエネルギーとして利用される時代へと移りつつある。光は電磁波の一種であるが、ウシオの係わってきた光源との関係を示すと図3-1のようになる。産業分野の光はますますエネルギーとしての質が求められていることが分かる。

図3-1の中でハロゲンランプはタングステンのフィラメントを発光させるもので、白熱電球に分類されるが、その他のランプはすべて放電ランプに分類されるものである。ハロゲンランプは複写機や自動車のヘッドランプなどに利用されてきたが、その他にも加熱エネルギーとしての利用も広がっている。それについては放電ランプのそれとともに、ライトエッジNo.7で「光放射加熱」を特集した。デジタルマルチメディア社会を支える情報産業分野の光源として、スキャナ、複写機、プリンタ、ファクシミリなどには、ハロゲンランプの他に多くの放電ランプが使われている。ライトエッジNo.10に読み取り機器に使われる光源を特集した。それらは、各種の蛍光ランプであるから、次節でいうロングアーク型の放電ランプである。一方、ショートアーク型と呼ばれる短い電極間から放たれる強い放射輝度を特徴とする放電ランプについて解説したのは、ライトエッジNo.15で「放電ランプ」特集として取り上げた。そこでは、ショートアークのキセノンランプ、超高圧水銀ランプおよびメタルハライドランプが主題として取り上げられた。光は明かりの延長としての機能ばかりでなく、半導体製造プロセスに見られるように、ウエハ製造から、露光、組立、検査工程に至るまで、光はものに機能を与える。露光に使われるだけでなく、ウエハに構造物を作る工程や熱処理工程では加熱用のランプ、検査用には可視光から紫外光に至る各種の顕微鏡が使用される。

電子部品組立でも接着や張り合わせの光源でも、ショートアークランプが使われる。

映像・情報機器の最近の代表は液晶プロジェクタやDLPプロジェクタであるが、これらの光源には極限までショートアークが追求されている。それを総合的に解説したのがライトエッジNo.19の「映像……デジタル化時代に向けて」という特集である。合わせてお読みいただきたい。

半導体、液晶および回路基板への露光に関しては、No.23に「ウシオの露光装置」を中心にした特集があることを申し添える。

表3-1に放電ランプの種類、特長と用途をまとめたものを示す。

図3-1 ウシオの「光」と応用製品

3.2 放電ランプの種類と概要

ショートアークランプは非常に高い放射輝度1)または輝度2)を発生するランプである。それはキセノンランプではXeガス、超高圧水銀ランプでは水銀、メタルハライドランプでは水銀とメタルハライドを発光させる放電ランプであり、発光管の直径に比べて短いアーク、とりもなおさず短い電極間距離で特性化されるランプと定義されよう。定格出力とその応用にもよるが、そのアーク長は当社のカタログで見ると0.5mmから7mmくらいの範囲にわたっている。一方、ロングアークランプは低圧の不活性ガスまたは高圧の水銀を封入するが、バルブ直径に比べて長いアークが特徴のランプである。それらはいずれにしても、輝度はショートアークランプに比べると低い。ロングアークランプでは陽光柱が管壁に接触するのでプラズマは管壁安定型であるのに対して、ショートアークランプにおいては、プラズマは二つの電極に支持されるのみであるので、電極安定型と呼ばれる放電形態の違いがある。ロングアークランプの管長あたりの輝度を高くしようと入力を増すと、管壁の温度も高温となるので水冷が必要になる。実際そのようなランプは水処理用などの高圧水銀ランプに見ることができる。蛍光ランプなど低圧水銀ランプでは、入力に対して高ランプ効率を得る動作圧が定まっているので、必要以上に水銀蒸気圧を上げても、効率は低下し管壁温度を上昇させるだけである。

ショートアークランプが高い放射輝度または輝度を得るのに都合が良いのに比べると、ロングアークランプのそれは低くならざるを得ない。しかし、ロングアークランプはその長さと紫外線効率が高いのを生かして、照明以外の用途、UV光化学応用、塗料、接着、コーティングの際のキュアリング光源に有用である。また、低圧水銀ランプは254nmに殺菌線と呼ばれる強い線スペクトルを持ち、殺菌、光化学での用途の他に、液晶工程での乾式洗浄の光源としても使われる。赤外線を発輝するランプでは加熱光源となる用途も若干ある。照明用では読み取り光源などに応用されるが、読み取り光源についての解説はライトエッジNo.10の特集号を見てもらいたい。バリアランプは水処理やウシオが得意とする液晶や半導体の乾式洗浄工程への応用であり、解説や論文がNo.1,2, 9, 11などに多数収録されている。ロングアークのメタルハライドランプはNo.15に収録されている。なお、ライトエッジはウシオのホームページから過去に発刊した全部を見ることができる。(http://www.ushio.co.jp)ここではショートアークランプに重点を置いて、種類と概要を記すことにする。

ショートアークランプにおいては、二つの近接した陰極と陽極によって支持されたアーク放電から強烈な光が放射される。従って、その特徴は高い放射輝度であり、これから擬似点光源としてレンズやミラー、ファイバなど光学デバイスと組み合わせることによって、光の集中、拡散、屈折、反射、回折などが自由にコントロールできるという特徴が出てくる。さまざまな用途の要求に応じている。基本的なランプの概要を封入物で分けると、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプおよび高圧ナトリウムランプの4つである。この節ではランプの特徴と用途について表3-1を用いて、簡単に説明する。

超高圧水銀ランプは365および436nmに利用価値の高い、幅の狭い線スペクトルを持つショートアークランプで、LSIや液晶の露光工程の中でステッパに搭載され、リソグラフィにはなくてはならない光源である。436nmはg線、365nmはi線とも呼ばれるが、LSIの高集積化とともに露光光源はg線からi線と移り、より短波長の方向に変化してきた。i線よりも更に短波長の光源も検討されたが、もうランプではLSIの高密度化の要求とマッチすることは難しく、256メガ以上のDRAMの製造工程では、KrからArエキシマレーザを使用するステッパがマイルストーンに乗った。さらに、F2レーザが次世代の光源として開発が急がれている。とはいっても、LSIの露光工程でもいろいろな波長のミックス・アンド・マッチであるので、超高圧水銀ランプの需要は大きい。液晶やテープなど回路基板の露光では、線幅が広いので専ら超高圧水銀ランプが使われる。

超高圧水銀ランプは露光とは別に、液晶プロジェクタやDLPプロジェクタの光源として注目を集め、多くの光学エンジンに採用され生産が拡大している。業務用では200Wを中心とする100W~310Wのランプが、コンジューマー用にはリアプロジェクション大型テレビ用に100W~120Wのランプが使われており、ミラーを介する光利用効率を高めるため、バルブが非常に小さく、その中の水銀は動作圧で150気圧以上に上る超々高圧水銀ランプである。水銀の動作圧が高くなると、線スペクトルは幅が広く連続化し強度が強くなるとともに、赤の領域の連続スペクトルの成分が大きくなる結果、色温度も低くなりプロジェクタの用途にマッチしたといえる。

キセノンランプの色は、種々あるランプの中で、真昼の太陽のスペクトルに近い、連続光に最も近似した色である。キセノンショートアークランプは高輝度であるので、自然色を再現する光源として種々の光学系で種々な用途で利用される。最初に映写機用に大きな市場を獲得して以来、サーチライトやソーラーシミュレータ、内視鏡でもその特徴を発揮している。デジタルシネマの到来でも中、大型の液晶プロジェクタやDLPプロジェクタの光源には、このランプが採用されつづけると考えられる。

メタルハライドランプが実用化されたのは、ショートアークの3つのタイプの中でも比較的新しい。キセノンランプは自然光に近い白色光である点で優れたランプであるが、効率が30rm/W程度と低いのが欠点である。メタルハライドアンプは希土類金属やアルカリ金属ハライドを封入しているランプで、それらの分子発光によって線スペクトルが互いに重なるほど広くなり、連続スペクトル化している。そのため演色性が高く、発光効率は80rm/Wから120rm/Wにもおよぶため、比較的長い電極間距離のものでは一般照明用で急速に市場を広げ、電極間距離の比確的短いものでは舞台、スタジオ、TV用照明でも市場を築き、最近ではマルチメディアの進化とともにOHPや液晶プロジェクタに用途が広がっている。

このランプは石英ガラスを使う限りは、アルカリ金属がガラス中に拡散するため、次第にアルカリの出す赤の成分が失われるため、色の安定性に欠ける欠点があったが、外国ランプメーカが高圧ナトリウムランプで使われていた透光性セラミック管をバルブに使いながら、ショートアークランプにもその封止方法と寿命維持の方法を確立したことから、色安定性に極めて優れたメタルハライドランプがショートアークランプにも用途を広げるようになった。ウシオも20Wという最小ワットランプを世界で初めて開発・実用化して売り出した。現在、電源一体型コンパクトランプを発売し、さらに35W、50W、70W、150Wのシリーズを整えようとしている。

高圧ナトリウムランプは透光性アルミナのバルブを使用することによって、ナトリウムとバルブが反応しないランプが初めて実用可能となったものである。可視光領域の効率が水銀ランプよりも高く、演色性が優れているため道路やトンネル照明で使われて、だいだい色の光を放っているランプであるが、この特集では触れない。

ショートアークランプの陰極先端は2700°Cにもおよぶものがあり、また、陽極には大きな電流が流れ込み電流密度は非常に大きいので、電極の損耗をいかに長い時間に亘って抑えるかがポイントとなる。それを適切に抑えないと黒化や失透など透過率の低下やアークのちらつきなどが起こり、光学系を通ってくる光利用にとって重大な不具合が起きることがある。技術的には電極、ゲッタの材料選択、設計技術が大事である。製造時や部材から持ち込まれる不純元素や不純ガスの低減のための制御も重要となる。

(甲斐 鎌三)

表3-1 放電ランプの種類と用途

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