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光技術情報誌「ライトエッジ」No.27/特集 放電ランプ(2004年4月発行)

4.各ランプの基礎知識

4.1 キセノンランプ

4.1.1 キセノンショートアークランプ

(1)発光原理

封入されているキセノンガスが光るのは、キセノンの原子あるいは分子の励起によって光が発生することによる。原子内の電子は普通の状態ではいずれの内核電子も、定常状態としては、それぞれの電子に規定されたただ一つの特定状態しか持ちえないという、フェルミ分布に従って最低準位の状態から順次席を占めている。最外殻電子も同時に取りうる準位のうち最低の準位に位置している。この状態を基底状態という。外部から光やX線があたったり、あるいは運動電子が衝突したりすると、内核電子は基底の状態よりも高いエネルギー準位に移ることができる。このような現象を励起と呼び、その状態を励起状態という。励起状態は非常に不安定で、短時間(約10-8秒)でもとの基底状態に戻る。しかし水銀や不活性ガスにおいては、これよりずっと長く10-2秒程度励起状態にとどまる場合がみられる。このような状態を準安定状態と呼ぶ。原子が励起状態から低いエネルギー状態にもどる時に、余ったエネルギーを光として放射する。このエネルギー差によって放射される光の波長が違う。言い替えると色が違ってくる。図4-1に代表的なキセノンのエネルギー準位を示す。

以上は線スペクトルが発生する機構であるが、キセノンランプにはイオン化エネルギー以上のエネルギーでたたき出された自由電子が、イオンと再結合する時に放出される連続スペクトルと自由電子が原子の強いクーロン場の中で加速・減速運動することにより放出される制動幅射による連続スペクトルを発生する二つの機構があり、キセノンランプの場合は、これがむしろ線スペクトルを凌駕するため、図4-6や図4-7の分光スペクトルに見られるような特徴的スペクトルを発生する。連続スペクトルは、Arでは1.1nmから1.7nmの範囲、Krでは1.2nmから1.9nmの範囲という具合に、他方の不活性ガスにおいても現れるが、いずれも紫外領域であるのに対して、Xeは不活性ガスの中で最も重い元素であるため、紫外、可視光から近赤外にかけて強い連続スペクトルが現れ、照明光源の封入ガスとしてそれ自体最も有用なガスであるといえる。

さてこの光を励起するためには上に述べたように最初に運動している電子が必要となってくる。この電子は電極から最初に引っ張り出す必要がある。電極の中には自由電子がたくさん存在するから、これらの電子に十分なエネルギーを与えると、電子は電極から外へ飛び出す。この電子に十分なエネルギーを与え、電子を電極から外へ飛び出させる方法には次のような方法がある。

  • 電極に熱を与える。
  • 電極の表面に光を与える。
  • 電極に強電界を与える。
  • イオンを当てて二次電子を励起する。

これらの方法で飛び出してきた電子が加速され陽極に向かいながら図4-2のように次々と電離と励起を起こし、電子なだれが発生し放電が開始していく。キセノンランプではイグナイタと呼ばれる高電圧の発生装置(約30kV)で電極に強電界をかけて電子を飛び出させる。この電子によって次々に発生した電子あるいは陽イオンが電極に衝突することによって、電極に熱を与えさらに多くの電子を飛び出させることになる。

図4-1 キセノンのエネルギー準位

図4-2 電子のなだれ

(2)構造

キセノンショートアークランプは対向した陽極と陰極をもち、その周囲をキセノンガスで満たした構造をとっている。そのシール構造によって大きく次の2つに分類される。

①箔シールランプ

電極にモリブデン箔を溶接し、その箔を発光管の石英ガラスで封着し、膨張係数の差による応力をモリブデン箔の塑性変形で緩和し、気密を保ったもの。

図4-3 箔シールランプ

②グレーデッドシールランプ

電極(タングステン)と発光管(石英ガラス)の間を膨張係数が少しずつ異なる材料をつないで密閉することで気密を保ったもの。箔シールランプの利点はグレーテッドシールに比べ、全長を短くできる点であり、グレーテッドシールの利点は大電流に対応できる点である。

図4-4 段継ぎシールランプ

③水冷式

空冷キセノンショートアークランプの最大入力は10kWで、それ以上の入力を必要とする場合は、水冷式キセノンショートアークランプを用いる。水冷式では入力30kWが実用化されている。水冷を行うのは、ランプの外部ではなく、陰極と陽極の内部である。

図4-5 水冷式クセノンショートアークランプの外観

(3)特性

①分光分布

可視光領域において太陽光の分光分布に非常に似ており、演色性がよい。

800~1000nmの近赤外部分に強いピーク波長があるため熱源として利用できる。

紫外域から赤外域までの連続スペクトルを持つ。

電気入力の変化に対して分光分布が一定であることもキセノンランプの特長である。

図4-6 キセノンランプと昼光スペクトル比較

図4-7 ランプ入力と分光スペクトル

表4-1 キセノンショートアークランプの特長

②輝度分布

図4-8に示すように陰極先端部分の輝度が一番 高く、陰極輝点と呼ばれ、普通数千万cd/m2のものまで作られており太陽の輝度(2.07x199cdm2)を超えるような設計のランプもできる。

図4-8 ショートアークキセノンランプの輝度分布

③点灯性

安定時間が短く、入力変化に対しても極めて早く追従する。消灯後瞬時再点灯ができる。反面、封入ガス圧が高いため始動には高い絶縁破壊電圧が必要である。

④キセノンショートアークランプの特長を表4-1に示す。

(4)用途

キセノンショートアークランプは上述した特長によって表4-2のような用途にまとめられ、重視される特長には◯印がつけられている。

少し詳細に述べるとキセノンランプの用途には、下記のようなものがある。

表4-2 キセノンショートアークランプの特長と用途

  • a.医療用内視鏡
    内視鏡は極めて細い光ファイバで構成されているが、そのファイバに光を送り、胃の中などを照明するための光源として使用されている。細いファイバを効率よく照明するために、高い輝度が必要である。また、照明された画像を目で見ながら患部を診断するため、色の情報は重要である。このため、自然光に近い光源が必要である。さらに、光源を点灯してからの患者の待ち時間を少なくするため、瞬時に点灯・安定する光源が必要である。
    以上の理由により、キセノンランプが使用されている。(4.1.2に詳述するミラー内蔵型セラミックキセノンランプは最適のランプである。)医療用途なので、非常に高い信頼性、確実な点灯性が点灯装置に要求されている。手術中にランプが消えてしまうことは許されない。医療用内視鏡は、工業用にも転用されている。
  • b.顕微鏡
    顕微鏡の試料を照明するための光源である。一般の顕微鏡の照明は、ハロゲンランプが採用されることが多い。ハロゲンより強力に、小さいエリアを照明するときに、キセノンランプが使用される。しかし、ランプ及び点灯装置のコストはハロゲンよりも高価であるので、高級な顕微鏡でしか使用されていないようである。
  • c.人工太陽(ソーラシミュレータ)
    キセノンランプのスペクトルが自然光に近いことをそのまま利用したものである。300W~30kWまで、幅広いパワーのキセノンランプが使用されている。
  • d.サーチライト・ビル照明
    この用途は、当然、屋外環境で使用されることになる。よって、長い寿命と高い耐環境性が点灯装置に要求される。このため、現在でもチョークコイル方式の点灯装置を採用しているユーザもある。2kW~5kW程度のランプが多く使用されている。
  • e.映画館、バックライト
    映写機の光源やプロジェクタなどのバックライトでは、映像・画像を写すという目的から、きれいに見えることが最優先される。従って、映像・画像の色がきれいで自然に、均一に明るく安定した光源が要求される。これには演色性がよく点光源で出力が安定しているという特長を持つキセノンランプが最適である。

(5)点灯装置

①点灯装置とは

ランプを点灯させるには点灯装置が必要である。点灯装置とは、ランプの始動(絶縁破壊)、アーク放電への移行、アーク放電の維持を行うためのものである。点灯装置は、点灯装置本体(ランプ電流を制御する部分)と、イグナイタ(ランプの始動を行う部分)の2つの部分に分けることができる。図4-9に示すような配置でランプを点灯する。点灯装置とイグナイタは、キセノンショートアークランプを、下記の過程で点灯させる。

  • a.ランプ端子間に高電圧を重畳し、絶縁破壊を発生させ、放電路を形成する。
  • b.点灯装置から突入電流を流し、アーク放電に移行させる。
  • c.点灯装置からの電流供給により、アーク放電を安定して維持する。

以下にこれらの過程について詳述する。

図4-9 放電灯にアーク放電が発生するまで

②ランプの始動(絶縁破壊)

パッシェンの法則により、ある領域以上では、電極間距離とガス圧力の積が大きいほど、ランプ電極間を絶縁破壊するために必要な電圧は高くなる。キセノンショートアークランプの場合、絶縁破壊電圧は30kV程度になるので、イグナイタに要求される出力電圧は、30kV~40kV程度になる。

これだけの高電圧になると、長い距離をケーブルで引き回すのは、事実上困難である。よって、イグナイタはランプハウスに内蔵し、ランプとの距離を極力近くするように配置するのが一般的である。このため、ランプハウスに内蔵できるような小型・軽量のイグナイタが要求されてくる。イグナイタを小型にするために、出力の周波数は、10MHz程度に設計される。

イグナイタの回路を、図4-10に示す。テスラコイルと呼ばれる特殊なパルストランスと放電ギャップを介してテスラコイルの1次側に高電圧パルスを供給するパルス発生部で構成される。放電ギャップを使用して高電圧パルスを発生し、これをテスラコイルの1次側に加え、テスラコイルでさらに昇圧し、昇圧した高電圧パルスをランプ電極間に重畳することにより、ランプ電極間を絶縁破壊する。(テスラコイルは、点灯装置とランプの間に配置される。)

その後、点灯装置からの電流供給により、ランプはアーク放電への移行を開始することになる。すなわち、イグナイタは、ランプ点灯の瞬間に仕事をし、点灯以降は休止していることになる。

イグナイタが高電圧を発生する瞬間は、強い電磁ノイズを発生する。この電磁ノイズを抑制するために、イグナイタ内部に特殊な電磁シールドと電磁フィルタを備えたタイプのイグナイタもある。このタイプのイグナイタを使用すれば、例えばコンピュータ等の電磁ノイズに弱い機器を使いながらランプを点灯することが可能となる。

一般的に、ランプ電極間の絶縁破壊電圧は、ランプの寿命末期になるほど高くなる。また、暗黒中に長く放置された状態でも、高くなる(暗黒効果)。このため、このような状況であっても、ランプ電極間の絶縁破壊を確実に行えるようにイグナイタを設計することが重要である。

図4-10

③アーク放電への移行

絶縁破壊が発生し、細い放電路が形成されたら、それをグロー放電を通ってアーク放電にスムーズに移行させなければならない。このために、点灯装置から突入電流が供給される。突入電流は、点灯装置内部の100V~200Vに充電されたコンデンサに蓄えられた電荷を一気に放出することにより発生させている。

傾向としては、突入電流が大きい方がアーク放電に移行しやすいようである。しかし、大きい突入電流は、ランプ電極にダメージを与える。瞬時に点灯できることがキセノンランプの特長の一つであるので、当然、ユーザはランプを頻繁に点滅するような用途でも使用する。よって、大きい突入電流は、ランプの寿命を確実に短くすることになる。

一方、短期間であっても点灯装置の出力電流がランプのアーク放電保持電流を下回ると、アーク放電を保持できなくなり、ランプは立ち消えに至ってしまう。このため、突入電流を低く抑え、アーク保持電流以上を維持し、なおかつ1回の点灯動作で確実に点灯することが、点灯装置の大きな役割である。

アーク放電に移行すると、ランプ電圧は急激に下がる。安定なアーク放電に移行する過程において、ランプ電流が増えるとランプ電圧が下がる、負特性と称される領域がそれである。点灯装置は、ランプ電流を限流することにより、放電を安定に維持させる役割を果たす。

図4-11

④アーク放電の維持

アーク放電に移行した後は、点灯装置からの直流出力電流で放電を維持する。アーク放電が安定に維持している領域では、ランプ電流が増えてもランプ電圧は概略一定となる、定電圧特性の領域となる。この領域になった時、ランプ電圧は、いわゆるランプ定格電圧と呼ばれる。ほとんどのキセノンショートアークランプの定格電圧は、20V~30Vである。

キセノンショートアークランプはその用途上、ランプの陰極先端に形成される輝点を長時間安定に維持することが必要である。このため、キセノンショートアークランプは、通常、直流(DC)点灯される。

さらに、その直流電流も、高い安定性と低い電流リップルが要求される。電流リップルは、ランプの電極に与えるダメージにも影響を与えるので、ランプの寿命を短くしないためにも、低くすることが必要である。

今まで述べたように、ランプの定常的な特性と過渡的な特性を熟知し、その上で最適な放電状態のコントロールを行うことがランプ点灯装置を設計する上で必須である。

図4-12

⑤点灯装置の種類

点灯装置の回路方式は、図4-13に示すような下記の種類がある。

図4-13

a.チョークコイル方式、リーケージトランス方式

電流制御素子として、チョークコイルを使用したものである。チョークコイルは、銅と鉄で作られるため、大きく重い。また、制御精度も悪い。しかし、回路が簡単であり、構成部品点数も少なく、寿命も長いという利点がある。

チョークコイルと絶縁トランスの複合素子であるリーケージトランスを使用した方式もある。

b.シリーズドロッパ方式

電流制御素子として、トランジスタを使用したものである。入力電圧とランプ電圧の差をトランジスタで消費し、電流制御を行っているので、発熱量が大きい。また、絶縁トランスも必要であるので、スイッチング方式と比較して、大きくて重い。しかし、高速な電流制御応答、高い電流制御精度、動作時に回路から発生する電磁ノイズが少ない、等の利点がある。

c.スイッチング方式

電力変換効率が良く、発熱が少ない。高周波なので、絶縁トランスが小型にできる。しかし、回路は複雑であり、部品点数も多いという短所がある。

上記で紹介した方式のうち、大きさと重さは、スイッチング方式が最も優れている。精度は、シリーズドロッパ方式、スイッチング方式、チョークコイル方式の順で優れている。堅牢さは、チョーク方式が最も優れている。

⑥スイッチング方式とは

上記のように各々優劣があるが、高い精度でランプ電流を制御し、同時に小型・軽量の市場要求を満たすために、スイッチング方式が採用される場合が多い。

スイッチング方式は、図4-14に示すような回路で下記のような動作をさせる。

  • a.交流入力電圧を直流電圧に整流・平滑する。
  • b.直流電圧を20KHz~100KHzの周期の高周波に変換する。
  • c.高周波用の絶縁トランスを介して、電圧変換を行う。
  • d.高周波を整流し、直流に戻し、出力電流とする。

スイッチ素子によって、直流電圧を裁断(スイッチ)し、20KHz~100KHzの交流に変換するため、スイッチング方式と名付けられている。半導体素子をスイッチとして使用するために、スイッチでの電力損失を少なくすることが可能であり、電力変換効率が良く、発熱が少ない。

スイッチング方式は、1秒間に20K回から100K回の断続制御によって直流―高周波交流―直流に変換することにより、高速応答と高い精度で出力を制御することが可能となる。スイッチング方式の点灯装置の実力は、1%以下の安定度、1%以下の電流リップルである。前述のチョークコイル方式と比較すると、10倍以上の高い精度である。

また、高周波トランスによる絶縁と電圧変換が可能なため、トランスが小型・軽量化できる。(一般に、扱う周波数が高いほど、トランスは小型にできる)チョークコイル方式と比較すると、大きさと重さは1/3~1/5程度小さい。

ただし、スイッチング方式の欠点は、チョークコイル方式に比べて、点灯装置自体の寿命が短いことである。チョークコイル方式の点灯装置寿命は10年をはるかに越えるが、スイッチング方式の場合はそれより短い。また、スイッチング方式は、高温、激しい振動、塩水雰囲気などの過酷な環境下に弱い。このため、海上サーチライトなどの用途には、チョークコイル方式が採用される場合もある。

図4-14

⑦技術動向

a.最適なランプ点灯制御

一部の機種では制御用マイクロコンピュータを内蔵し、ランプ点灯時及び定常時の放電状態を最適に制御することを行っている。この結果、ランプ点灯時の突入電流を激減させ、かつ、良好な点灯性を確保できるようになった。また、常に放電状態を監視制御しているので、最適な放電状態を維持することが可能になる。

b.光量安定性の向上

ランプ電流やランプ電力を一定に保っても、アーク放電の変動により、ランプから出る光は「ゆらぎ」を含んだものになる。また、長いスパンで見れば、ランプ寿命末期に従い光量は低下する。用途によっては、このような光のゆらぎや長期的な低下を嫌う場合が増えてきた。新品ランプと寿命末期ランプでは、光量が70%近く異なる。生産装置でランプを使用している場合など、その差はそのまま生産装置のタクトタイムの差になる。これは、使う側にとっては、やっかいなことである。これを改善するために、ランプの光をモニタし、常に希望の強さの光量が得られるように点灯装置の出力電流あるいは出力電力をフィードバック制御する。ランプが新品の状態では定格の70%程度のランプ電流で点灯し、ランプからの光量が少なくなるに従ってランプ電流を増大させ、ランプ寿命末期の状態では定格の100%のランプ電流で点灯するようにする。このため、常に一定の光量を維持できる。

c.点灯装置のシステム化

ランプが使用される装置の複雑化、高度化に伴って、点灯装置もランプを点灯させる機能だけでなく、ランプ放電を安定に維持するシステムコントローラとしての役割を担うようになってきた。このため、ランプの状態や点灯電力によって冷却条件を最適に制御する機能や、ホストシステムとの通信によってランプを制御したり、点灯状態を報告する機能など、ユーザが使いやすいランプシステムの機能を含んだ点灯装置も製品化されている。この傾向は、今後ますます強まるだろう。

d.小型・軽量・高信頼性

この要求は市場要求として当然であり、これに常に答え続ける必要がある。点灯装置は、ユーザシステムに組み込まれることがほとんどである。このため、点灯装置が故障しても容易には交換できない場合が多い。信頼性を確保しつつ、小型軽量にすることが要求される。

e.高効率・高力率

特に半導体製造ラインにおいては、発生する熱を嫌う場合が多い。このため、点灯装置の電力変換効率を高め、点灯装置からの放熱を抑える必要がある。また、生産ラインでは複数台の装置を並べて使用することが普通であるため、点灯装置への入力電力(VA)を低く抑えることが要求される。これに答えるためには、電力変換効率を高めると同時に、入力力率も高めなくてはならない。電子回路的に力率を高めるアクティブフィルタ方式(PFC)や、チョークインプット方式などが採用されている。

f.規格対応

どのような装置であれ、日本国内だけで販売し、輸出を考えないものはまれである。このため、UL、CE、GS、VCCI等の海外の安全規格・ノイズ規格に対応する要求がますます強まっている。更にはROHS指令等の環境対策対応も必要である。

(松島 竹夫)(点灯装置:林 宏樹・杉本 洋利)

4.1.2 セラミックキセノンショートアークランプ

(1)原理

セラミックキセノンショートアークランプ(以下UXR)の発光原理は従来のキセノンランプと同じである。このため『3.放電ランプとは』及び『4.1.1キセノンショートアークランプ』を参照していただきたい。

(2)構造

構造は従来のキセノンランプとは異なり、窓側ユニット、反射鏡ユニット、ベース側ユニットから形成されている。

窓側ユニットは金属フランジを中心に、光線を出射する窓と、陰極を含む陰極支持部材一式から形成されている。窓は酸化アルミニウム(通称アルミナ)の単結晶体であるサファイアを使用している。窓を保持する部材は、アルミナとの接合部にかかる熱的ストレスを小さくするために、熱膨張係数がアルミナに近い鉄-ニッケル・コバルト系の合金でできている。陰極は、ランプ中心軸上に位置するようにフランジ内側に張り出した金属板にて保持されている。陰極は、この金属板を介して熱的及び電気的にフランジと接続されている。

反射鏡ユニットは、放物面または楕円面を持つ凹型円筒形状の反射鏡部と、その円筒両端に接合した金属スリーブから形成されており、発光管兼反射鏡の役目を担っている。反射鏡部は凹型に機械加工されたアルミナの焼結体でできている。凹部内表面には釉薬とよぶガラスが塗布されており、その上に銀などの薄膜をコーティングして反射鏡としてある。紫外域を利用したい場合には、銀の代わりにアルミニウムをコーティングすることもある。金属スリーブは、鉄-ニッケル・コバルト系の合金でできている。なお、凹部開口側の金属スリーブは-側口金、他方は+側口金の役目を担っている。

ベース側ユニットは鋼のベースを中心に、純タングステン製の陽極と、排気とキセノンガス導入を行なうための金属パイプから形成されている。

各ユニットは、反射鏡ユニット両側の金属スリーブに窓側ユニットとベース側ユニットを対向するように組み付け、アーク溶接にて気密を保つように一体化する。

図4-15 UXR断面図

(3)特性

①分光分布

キセノンアークの分光分布は昼光のそれに近似している。UXRランプは一般的な照明用途において、従来のキセノンランプの置き換えとして使用することができる。しかし、紫外光を必要とする用途においては以下のことを留意しなければならない。

標準的なUXRランプ(300W)の分光分布を図4-16に示す。

図からわかるように、標準的なUXRランプの分光は紫外域 約350nm付近から急激に低下する。

これは基礎編で解説したように、可視~赤外の出力を重視するために、この領域での反射率が最も高い(反面、紫外域での反射率が低い)銀の蒸着を反射鏡に施していることによるものである。したがって、紫外光を必要とする用途においては反射鏡の蒸着物質を特別に選定しなければならない。また、光出射の窓には無反射コートを施して透過率を高めている。

図4-16 UXRの相対分 光分布放射照度

②光線特性

UXRランプは、封止体を形成するアルミナ焼結体そのものの内面を反射鏡形状に成形している「反射鏡内蔵型キセノンランプ」である。したがって、その光線特性は反射鏡形状、放電電極の形状及び配置により決まり、ランプ完成後の調整はできない。したがって、市場ニーズ(必要光量、寿命など)によっては、これに合わせた専用のランプ設計を行う必要がある。

一例として弊社において標準的な(放物面反射鏡タイプ)300W-UXRランプの光線特性を図4-17に示す。

前述した構造上の特性と合わせて、UXRは以下のようなメリットがある。

① 同程度の出力の従来型キセノンランプに比べて、部材及び接合方法が特有のために機械的強度が高く、使用時や交換時における破裂の危険性が低い。

② また使用している部材及び接合方法は堅牢かつ排熱が良いことから従来型キセノンランプに比べてショートアーク化が可能。

③ 反射鏡を含めた部分の機械的寸法がコンパクトなため、従来型キセノンランプに反射鏡を取り付けたものに比べて灯具や光学系を小型化しやすい。

これらのメリットを生かして、UXRはファイバー照明用光源(特に医療用内視鏡用光源)や映像ディスプレイ用光源として使用されている。

④ 機械的寸法精度が高い。

デメリットは次のとおりである。

① 部材が高価なため高コストである。

② 従来型キセノンランプに比べてキセノンガス中を通る光路長が長いため、キセノンガスの対流による明るさのちらつきが生じやすい。

図4-17 標準的なUXRランプ(300W)の光線特性

(4)点灯装置

セラミックキセノンショートアークランプの点灯装置は、前項のキセノンショートアークランプと同様であるので、参照されたい。

(田中 英夫、千葉 茂)

4.2 キセノンフラッシュランプ

フラッシュランプは、用途によって形状・寸法・構造・入力が大きく異なり、分光分布や放射効率等のランプ特性も大幅に異なる。ワンパルス当たりの入力を例に取れば、0.1Jから50KJのランプが世の中に存在する。ランプ全般にわたる特性の包括的解説は他の優れた文献や書籍1) 2) 3) を参照して頂きたい。

ここでは、図4-18に示す石英ガラスランプに限定して解説する。

図4-18 石英ガラス製フラッシュランプの構造図

4.2.1 構造

発光管は内径Φ8~Φ15の石英ガラスチューブが使用される。Xe封入ガス圧は2.6x104~8x104Pa(200トル~600トル)が一般的である。封入圧は点灯電源の始動性能との兼ね合いで決定されることが多い。

陽極には純タングステンが使用され、陰極にはBa系酸化物のディスペンサー電極、あるいは希土類の酸化物やトリヤをエミッターとする焼結電極が使用される。それらの使い分けは、ワンパルス当たりの入力および平均入力と要求寿命から決定される。

4.2.2 特性・使用方法等

フラッシュランプを使用する場合、用途に応じた最適のパルス光(パルス幅、ピーク強度あるいは分光分布)で物体を照射すべきである。またランプ寿命も考慮して使用されなければならない。これらの目的を達成するために必要な特性について述べる。

(1)電流のパルス波形と放射のパルス波形4)5)1)3)

図4-19に一般的な点灯回路を示す。電流のパルス波形を決定するために使用される等価回路は図4-20である。ランプ抵抗RLはガスのインピーダンスパラメターK0を使って3式)で表される。

ここでiはランプ電流[アンペア]であり、時間の関数である。

図4-20で浮遊抵抗が十分に小さい場合、回路に流れる電流は以下の方程式から求まる。

上記で求めた電流の半値巾が100µs程度以上の場合、放射の出力波形はランプの入力波形にほぼ一致する。放射の波形は以下の式で換算できる。

なお、4式)を使った計算は個々の回路定数における波形の計算には適しているが、全体を見通すには不適切である。回路定数を規格化することで、見通しの良い計算が可能であり、文献4)に詳細されている。また回路定数の決定については文献5)3)に分かり易く解説されている。

図4-19 点灯回路(代表例)

図4-20 等価回路

(2)放射の効率 2)

ランプ入力(CV02/2)に対するランプからの全放射の比率η[%]はランプの寸法、ピーク電流値、あるいはガラスの透過率で大幅に変わる。図4-18に示す寸法のランプで、その電流密度が1500A/cm2程度以上の場合、ηは70~80%程度である。表4-3に、350nm~1100nmの各波長域に放射される割合を示す。

表4-3 ランプの放射効率
(H.E.Edgerton,Electonic Flash Strobbeから抜粋)
ランプFX-47Aは内径13Φ、発光長160mm、
Xe封入圧0.4atm(4x104Pa)である。

(3)放射の分光分布1)、6)、2)、7)

キセノンフラッシュランプの分光分布の一例を図4-21に示す。

800nmから1100nmに数本の強い輝線スペクトルが存在すること、および800nm以下の分光分布が黒体放射の分光分布にほぼ一致することが放射の特徴である。

全放射(時間積分された放射)の分光分布を黒体温度に換算ずる式が文献6)、3)に記載されている。ピーク電流密度jpとチューブ内径Dを変数とする実験式で、

ここで、T、K、jpの単位は各々[K]、[m]、[A/cm2]である。

一方、電流密度の瞬時値におけるプラズマ温度の 理論値については文献1)に記載され、

ここでT、jの単位は各々[K]、[A/cm2]である。

6)式あるいは7)式と石英ガラスの透過率から800nm以下の分光分布の形状を推定可能である。また放射の割合から各波長域の絶対値も算定可能になる。

図4-21 フラッシュランプの分光分布

(4)破裂の寿命式(実験式)3)、5)、8)、9)

電流波形が決まると、極限の入力(数回の点灯でランプが破裂すると予想される入力)を求めること ができる。その入力をEEx[ジュール/ワンパルス] とし、実際に使用する場合の入力をEとすれば、破裂 に到る点灯回数NEX[回]は次式で与えられる。

ランプが臨界制動4)で点灯される場合、EEXは以下になる。3)5)8)9)

ここで、ALは発光長[cm]、Dは内径[cm]Lはインダクタンス[H]、Cはキャパシタンス[F]である。

8)式は0.35≤(E/EEx)、すなわちNEX≤8x103回で比較的成り立つ実験式であり、フラッシュランプを高入力で点灯する場合のメンテナンスに使用されている。

工業用用途には(E/EEx)≤0.2で使用することが望ましい。この場合には、8)式は成り立たたない。

(5)ランプの冷却基準 2)、3)

平均入力(1秒間当たりのランプ入力)を発光部の内表面積で割った値を管壁付加[W/cm2]と呼ぶが、管壁付加の大小で冷却を変える必要がある。冷却方法と管壁付加の関係は各々、自然空冷で15W/cm2以下、強制空冷で15W/cm2~30W/cm2、水冷で30W/cm2~200W/cm2が概略の目安である。この目安を超えて点灯すると、石英ガラス内壁のダメージが激しく、急速に出力低下をきたす。

(大久保 啓介)

4.2.3 クリプトンアークランプ

クリプトンアークランプはNd:YAGレーザの励起用 光源として開発されたDC放電ランプである。

(1)構造・特性等

ランプの基本構造を図4-22に示す。

ランプ内径と発光長はNd:YAGロッドの寸法によって適宜決められるが、内径Φ4~Φ7、発光長50mmから200mmのランプが市販されている。1)

水冷点灯であり、ランプ入力は発光部の単位内表面積当たり最大350w/cm2まで入力可能である。ただし、最大入力近傍で点灯すると、ランプ破損の確率が高いため、実用では、150w/cm2程度の入力から出発し、レーザ出力の低下をランプ入力でカバーしながら、ランプ入力が300w/cm2程度に達した時点でランプを交換するのが一般的である。

ランプの使用可能時間は6kWクラスのランプで800時間、3kWスのランプで2000時間程度とされている。

近年、半導体レーザがNd:YAGの励起用光源として使用され始めた。励起効率、寿命、信頼性、およびビーム品質の制御性の点でランプよりも優れているため、レーザ発振器はレーザ励起に置き換わりつつある。

ランプの分光分布図とNd:YAGの励起吸収特性を各々図4-23と図4-24に示す。Krガスの750nmから900nmの強い輝線放射がNd:YAGの励起吸収特性に一致していることがその特徴である。

(大久保 啓介)

図4-22 クリプトンアークランプの基本構造

図4-23 リプトンアークランプの分光分布図

図4-24 Nd:YAGの吸収特性

4.3 超高圧水銀ランプ

4.3.1 発光の原理

この章で扱う超高圧水銀ランプは直流点灯でかつショートアーク型のものとする。超高圧水銀ランプはランプのほぼ中心に位置する陽極と陰極の間にアーク放電が形成され、そこから輝線スペクトルと呼ばれるある波長に限定された強い放射と輝線以外の連続スペクトルの放射が発せられる。前者は水銀が励起状態から基底状態または準安定状態に戻るときのエネルギー差の放射であり、後者は自由電子とイオンの再結合による放射が主である。さらに詳細なスペクトル形状は、点灯中の水銀蒸気の圧力に依存していくぶん変化するという特徴を持っている。詳細なスペクトル(以下分光分布と呼ぶ)については4.3.3(3)で述べる。

(1)輝線スペクトル

超高圧水銀ランプの陰極から放出された電子が基底状態の水銀原子に衝突し、水銀原子がエネルギーの高い励起状態に遷移する。励起状態から基底状態、または準安定状態に戻るときにこのエネルギー差分だけ放射されたものが輝線スペクトルである。水銀のエネルギー準位ダイアグラムを図4-25に示す。

その波長λは以下の式(1)で示される。

Ee : 水銀の励起状態のエネルギー
Eg : 水銀の基底状態または準安定状態のエネルギー
h : プランク定数(6.63x10-34J・s)
c : 光速(2.998x108m/s)

図4-25 水銀のエネルギー準位ダイアグラム

(2)連続スペクトル

超高圧水銀ランプの陰極から放出された電子が基底状態の水銀原子に衝突したとき、水銀原子が上述のような励起状態になる以外に電離してイオンになる。この水銀イオンに高速で運動している自由電子が衝突すると正の電荷を持った水銀イオンと負の電荷を持った電子が再結合し、電子の運動エネルギーに見合うエネルギーが放射される。これは、以下の式(2)で示されるように連続スペクトルとなる。

eVi : 電離エネルギー
K : 電子の運動エネルギー

4.3.2 構造

超高圧水銀ランプを構成する主な材料は、石英ガラス、タングステン、モリブデン、水銀、希ガスといった基本材料と、ランプ取り付け部分を構成する口金、リード線などである。特に前者の基本材料は品種によらず不可欠な材料である。簡単な超高圧水銀ランプの外観図を図4-26に示す(この図は陰極が上に描いてあるが、陰極が上で点灯するものと陽極が上で点灯するものがある)。また、図4-19に示した基本材料の詳細と役割を以下に述べる。

図4-26 超高圧水銀ランプの外観図

①陽極
陽極はアーク放電に曝され、電子の流入口となるため先端部は非常に高温になる(ランプの種類によっては3000°Cを越える)。そのため、通常高融点材料であるタングステンを用いる。ここで発生した熱は陽極側の口金方向への伝導、ランプ内の対流、陽極自身の熱放射により消費され熱平衡が保たれる。

②陰極
陰極はアーク放電を継続するための電子放出口である。電子放出が低いエネルギーで起こること、即ち仕事関数が低いことと高温で蒸発、溶融しにくいという観点から、通常タングステンに酸化トリウムを数%分散させたトリエーテッドタングステンを用いる。トリエーテッドタングステンを用いた場合、陰極先端部の温度はリチャードソン・ダッシュマンの式から2700°C程度となる。

③水銀
水銀は発光の主成分として封入する。封入量は水銀発光のどの波長を利用するかにより異なり、用途に応じて決定される。

④希ガス
希ガスは始動を補助するために封入し、バッファガスとも呼ばれる。封入量は始動性、寿命特性、光学特性などを鑑み決定される。通常は、アルゴン、クリプトン、キセノンなどのガスが用いられる。

⑤石英ガラスバルブ
バルブは水銀や希ガスを封じ込める容器である。材料としては通常広い範囲で高い透過特性を示し、高温でも変形しない石英ガラスが用いられる。

⑥モリブデン導電箔
導電箔は口金あるいはリード線から電極へ流れる電流の通り道である。電極とはモリブデンディスクなどを介して溶接され導通が保たれている。また、ランプは通常この部分で発光部と外部リード線とが仕切られて気密性を保つようになっている。

⑦タングステン棒及びモリブデンディスク
外部タングステン棒とランプ内部の電極との導通を得るために、補助的に設けられる部品である。

⑧口金、リード線
ランプをランプハウスなどに取り付けたり、安定器からの導通を取るための部品である。

4.3.3 諸特性

超高圧水銀ランプの特性は大きく分けて電気特性、熱特性、光学特性、寿命特性の4つからなる。

(1)電気特性

電気特性は始動に必要な絶縁破壊電圧、アーク放電に移行するまでの過渡的な電流、そして定常点灯中の電圧と電流で表される。

① 絶縁破壊電圧はランプを始動させるために陽極と陰極の間に火花放電を起こすのに必要な電圧である。この値は陽極と陰極の距離、ランプに封入した希ガスの種類と圧力などによって異なる。

② アーク放電に移行する過渡的な電流は、火花放電が発生した後、陰極が熱電子放出を開始するまで安定器から意図的に過電流を流し、陰極を暖める目的で流される。通常、この電流は定常点灯時の数倍程度となる。

③ 定常点灯中の電圧と電流は陽極と陰極の距離、ランプに封入した水銀の圧力などにより決定される。ランプ入力が同一の場合、陽極と陰極の距離が長いほどまた、水銀の圧力が高いほど定常点灯時の電圧は高く、電流は低くなる。

(2)熱特性

ランプは高温で点灯される。この熱は安定器から供給された電流により発生するジュール熱、アーク放電により発生した熱、バルブ中で発光した光の吸収により生じた熱などがある。これらによる発熱によりランプの温度がある範囲を超えるとランプの各部に重大なダメージを与えることになるが、逆に低すぎると水銀が充分に蒸発せず本来の発光が得られないと言うことにもなる。従って、ランプはその特性により指示される温度範囲で使用されなければならない。図4-27にランプ温度指定の一例を示す。

図4-27 ランプ温度指定の一例

(3)光学特性

ランプの光学特性の基本は分光分布、配光分布、輝度分布の3つで表される。これらの特性の詳細について以下に述べる。

① 分光分布は通常、分光放射照度計(通称、分光器)により測定される。分光分布はランプに封入した水銀の量に依存し、水銀量を増やすほど、連続スペクトルの放射が増え、輝線スペクトルの半値幅が大きくなる。図4-28,29に水銀量を変化させた場合の分光分布の違いを示す。図4-28はi線(365nm)の発光が強くなるよう設計されたランプのものであり半導体露光用光源などで用いられている。図4-29は先のものに対してg線(436nm)やh線(405nm)の発光が強くなるよう設計されており、液晶露光用光源などに好適に使用される。

図4-28 半導体露光用光線の分光分布図

図4-29 液晶露光用光源の分光分布図

② 配光分布はランプから放射された全方向の光の内、任意の経度における緯度方向の放射照度を測定したものである。この分布は電極設計により若干異なるが、上下方向に行くほど放射照度が小さくなり、特に陽極側でその傾向が顕著に現れる。また、一般的には水平方向近傍で放射照度が最大となる。例として図4-30に、陽極を上側にして点灯したランプをi線近傍に感度がある照度計を用いて測定した配光分布を示す。

図4-30 配光分布の一例

③ 輝度分布はアーク放電している部分を拡大し、ア ーク像が持つ各部分の放射照度の面分布を表した ものである。この値は陰極先端で最大となり、陽 極側に近づくほど小さくなる。i線近傍の輝度分布 の測定例を図4-31~33に示す。

図4-31 輝度分布(全体像)

図4-32 輝度分布(ランプ軸に垂直)

図4-33 輝度分布(ランプ軸方向)

(4)寿命特性

ランプの寿命を決める要因はランプからの放射照度の低下と、ランプに使用されている石英ガラスの劣化によるものが主である。

① 放射照度低下の主な原因は熱蒸発した電極材料が石英バルブの内面に付着することにより、石英バルブの透過率が下がることである。既に2項で述べたように陽極の先端部分は3000°C前後の高温になっており、ランプの動作原理から考えてこれを回避することはできない。

② 石英ガラスはこれも4.3.3(2)項で述べたように点灯中に高いところでは800°Cの高温になっている。また、各部分で温度差があり、熱膨張係数の全く違う金属材料とも接しているため、長時間の点灯で石英ガラスに歪みが発生する。このような歪みを熱歪みと呼んでいる。この熱歪みが大きくなり石英ガラスがそれに耐えられなくなると破損を起こすことがある。

4.3.4 用途

超高圧水銀ランプは弊社では約45年前に初めて開発され、様々な用途に使用されてきた。開発当初は紡糸照明用に用いられ、その後、拡大投影機、蛍光顕微鏡、電磁オシログラフの照明および光源として用途が広がり、現在では半導体、液晶、プラズマディスプレイパネル、プリント基板露光用光源として無くてはならないものになっている。

4.3.5 点灯装置

点灯装置から見れば、キセノンショートアークランプも超高圧水銀ランプも同じ放電ランプであるので、4.1.1のキセノンショートアークランプの点灯装置の項目で述べた内容と、重複する部分が多い。このため、本項では、超高圧水銀ランプ点灯装置として特徴的な点のみを述べる。

(1)ランプの始動(絶縁破壊)

①DCタイプイグナイタ

超高圧水銀ランプは、水銀が固化している状態では、バルブ内圧力が低い。このため、電極間距離とガス圧力の積が小さいので、ランプ電極間を絶縁破壊するために必要な電圧は低くなる。キセノンショートアークランプのイグナイタ出力電圧は30kV~40kVだったが、超高圧水銀ランプ用のイグナイタはずっと低い。100Wクラスのランプでは2kV程度のイグナイタ電圧で十分であり、5kWクラスのランプですら7kV程度で絶縁破壊可能である。この程度の電圧ならば、ランプケーブルの耐圧・絶縁抵抗に配慮すれば、イグナイタを点灯装置に内蔵することが可能になる。イグナイタを別に用意し、ランプハウスに取り付ける必要がないので、ユーザにとってのメリットになる。また、ランプハウス内部の絶縁設計も容易になる。イグナイタを点灯装置に内蔵することを前提に考えると、出力ケーブルでの高電圧の減衰はなるべく少なく抑えたいので、このような場合には超高圧水銀ランプ用イグナイタの出力は、DC電圧を使用したDCタイプイグナイタが用いられる。

イグナイタの回路は、図4-34のように、高電圧ダイオードとリレー、高圧DC発生部とで構成される。高圧発生部から出力されるDC高電圧をランプ電極間に印可することにより、ランプ電極間を絶縁破壊する。DC高電圧をランプ電極間に印可している時間はリレーの接点を開いておき、点灯装置側に高電圧が逆流しないように、高電圧ダイオードによって阻止を行っている。ランプ電極間の絶縁破壊の直後にリレーの接点を閉じ、点灯装置からの電流供給はリレーの接点を通して行われる。

バルブ内圧力が高い時間(ランプ消灯直後などのバルブ温度が高い時間)は、上記のような低い電圧のイグナイタでは絶縁破壊できない。しかし、キセノンショートアークランプと異なり、超高圧水銀ランプの場合は、もともと瞬時点灯・瞬時安定ができないので、一般的に一度点灯したランプは消さないことが多い。このため、ランプ消灯直後に再点灯できない欠点は問題にならないことが多いようである。

図4-34 イグナイタの回路

②ACタイプイグナイタ

従来の比較的小型の超高圧水銀ランプは、上記のようなDCタイプのイグナイタで点灯することが可能である。しかし、ランプの大電力化に伴い、極間距離の増大・点灯前の内部圧力の増加などにより、DCタイプのイグナイタでは電極間の絶縁破壊が不可能になってきた。そこで、キセノンランプと同様にテスラコイルを用いたイグナイタを用いる必要がある。社内ではこれをACタイプのイグナイタと称している。(詳細は4.1.1(5)参照)

(2)アーク放電の維持

超高圧水銀ランプも、キセノンショートアークランプと同じく、点灯装置からの直流電流出力で放電を維持する。超高圧水銀ランプは、点灯初期(点灯開始から5分程度)にはランプ内部の水銀の蒸発が行われていないために、10V~20Vのランプ電圧が維持される。その後、ランプの温度が高くなり水銀蒸発が開始されるに従い、ランプ電圧は急激に上昇し、最終的にはランプの定格電圧に達する。超高圧水銀ランプの定格電圧は、ランプの種類によって大きく異なる。例えば、8kWの超高圧水銀ランプの場合は80Vが定格電圧であるが、100Wの場合は20Vである。

点灯装置は、ランプ電圧が低い期間(ランプ点灯初期)、ランプ電流がランプ最大定格電流を越えないように、出力電流を一定に保つ。その後、ランプ電圧の上昇に伴い、ランプへの投入電力(ランプ両端電圧とランプ電流の積)が一定になるように制御する。用途にもよるが、一定電力の精度、安定度、電流リップルは、高いレベルで抑えられていることが要求される。

図4-35

(3)点灯装置

点灯装置の回路方式は、キセノンショートアークランプの場合と全く同じ理由で、スイッチング方式が採用されている。ランプ電圧・電流の変化が広い範囲であること、ランプの放電状態が変化することから、点灯装置の制御は、キセノンショートアークランプよりも超高圧水銀ランプのほうが複雑になる。

超高圧水銀ランプは、半導体製造装置などの生産設備に採用されていることが多い。生産設備では、生産性をあげるために、24時間365日で稼働されることもめずらしくない。このため点灯装置は、24時間365日の稼働率で、長期間耐えられる高い信頼性が要求される。

本稿はLight Edge No.15第三章 超高圧水銀ランプ3.1原理と特性、構造を現状に合わせて書き直したものである

(山口 明康、酒井 基裕、間山 省一)(点灯電源:林 宏樹)

4.4 プロジェクタ用超高圧水銀ランプ(NSH)

ここで解説するプロジェクタ用超高圧水銀ランプとは4.3で述べられている主に輝線スペクトルを利用する半導体向けの光源とは異なり、より連続発光成分が多く、光源サイズが小さく、そして輝度の高いプロジェクタ向けの光源に適した特性を備えている。これらの特性はその動作圧により決まっている。半導体向けでは高輝度の単色光を利用するのを目的としているために、その動作圧が数十気圧までにとどまっているのに対して、プロジェクタ用超高圧水銀ランプではその動作圧を100気圧を超えて設定することで、その光源サイズ(放電アーク)が径方向に収縮し、実用的なランプ電圧で短アーク化でき、そしてさらにその分光において連続発光成分が増大することにより演色性も改善することができる。これらの特性はすべてプロジェクタの照明効率を向上するために求められている特性である。動作圧が異なり、その応用分野が異なるため、プロジェクタ向け超高圧水銀ランプを、弊社ではNSHと称して半導体向けのそれと区別している。

4.4.1 発光スペクトル

水銀ランプの発光は低圧では輝線スペクトルが支配的であるが、動作圧が上昇するにつれ輝線幅が広がり、加えて連続発光が増大し、100気圧を超えて200気圧に迫るとプロジェクタ用の光源に使えるレベルまで十分な赤成分の発光が得られるようになる。点灯時の水銀蒸気圧と発光分布の関係は古くから測定されているが、図4-36に最近報告された水銀蒸気圧と分光分布のデータ例を示す。この連続発光成分は分子発光によるといわれている1)。ここでの分子とはHg2であるが2)、本来結合エネルギーが小さいためその分圧は圧力に強く依存し、温度が高いプラズマ中でも存在する。その分圧は圧力の二乗に比例するといわれており、この分圧が100気圧以上で急速に増えるために結果として連続発光成分が増えていると考えられる。平本3)は高圧水銀灯における分光の圧力依存性について過去の文献のレビューと数値的な解析から以下のように結論付けた。すなわち大きく3つの要素に分けられる。一つ目は高密度化することにより分子間力が主原因で407,436,546,578nm付近に見られる輝線スペクトルに広がりが見られるようになる。二つ目は先に述べた分子発光による変化である。500nm以下の波長ではHg2の発光として420,433,451,464nmの発光が報告されている。しかし、この領域での更なる幅広い領域での発光を説明するにはHg3の存在も無視できないと考えられる。最後に500nmより長波長側の連続成分の増加であるが、再結合放射ではなく原子による制動放射が支配的であると結論付けている。

図4-36 水銀動作圧と分光分布

4.4.2 輝度分布

輝度分布は空間的に狭い範囲に限定されるほどプロジェクタの照明光学系にとっては光の利用効率が高くなる。この考え方はe,tendue(geometorical extent)で説明されている。この考え方はブロジェクタ照明系の設計とあわせわかりやすく解説4)されているので割愛するが、輝度分布を空間的に制限する要素は2つある。ひとつはアークギャップ、二つ目はアークの径方向への広がりである。

アークギャップは動作圧にかかわらず設定することが可能であるが、同一極間でのランプ電圧が動作圧にほぼ比例することから、実用的な点灯電圧を維持しながら極間を短くするためには動作圧を上げる必要がある。

さらに動作圧を上げると径方向へアークが絞られることから輝度を高く設定するためには動作圧が高ければ高いほど良いことになる。現在商品化している製品の輝度分布を図4-37に示す。

図4-37 直流点灯型 150W の分光分布

4.4.3 ランプ構造

これまで述べてきたように、プロジェクタ向けの光源に求められる分光特性、光利用効率のいずれをとっても、アークギャップを短くし動作圧力を高く設定すればよいことが明らかである。弊社では上記2点に加えさらに高輝度の光源が望まれていることを勘案し、1998年に提案した150Wのランプをベースに300W超までの高出力ランプを提案してきた。ランプの性能を最大限に引き出すには動作圧力を高く維持するために発光管の最冷点の温度を高くする必要があり、一方で最高温度は長時間の動作を満足するためにある温度以下に抑える必要がある。電力が150W以下で大きな反射鏡を用いれば発光管に冷却を施すことなくこれらの要件を満足する設計が見出せるが、弊社では高出力高輝度の光源を提供する必要性を早くから認識し図4-38に示すようなクーリングリフレクタを提案してきた。

最近ではプロジェクタ商品の多様化に伴い反射鏡のサイズ、設計、材質で細かく対応している。ランプ電力と反射鏡設計の一例を表4-4に示す。

図4-38 NSHランプ ク-リングリフレクタの構造

表4-4 NSHランプ ク-リングリフレクタの構造

4.4.4 特性

(1)電気特性

通常、プロジェクタの製品企画に応じて、ランプに投入されるエネルギー(電力)は、おおよそ定まってくる。その時、プロジェクタのキーパーツとなるデバイス設計とランプ設計とは密接な関係をもっており、更に設計の方向性を合わせるために使用するデバイスの種類(LCD、DLPなど)、サイズによって、ランプの極間設計、動作圧力設計を選択することになる。

(2)寿命特性

ランプの寿命を決める要因はランプからの放射照度の低下とランプに使用されている石英ガラスの劣化による破損が主なものである。

①放射照度低下の主な原因は、熱蒸発した電極材料が石英バルブの内面に付着すること(黒化)や、紫外線などの作用によりガラスが結晶化する(失透)ことにより、石英バルブの透過率が下がるためである。電極の先端部分は高温になっており、ランプの動作原理から考えてこれを回避することはできない。しかし、微量のハロゲンガスを添加することにより、上記二つの作用を抑制することができる。

②石英ガラスはすでに本項で述べたように、点灯中におよそ1000°Cになっている。また、各部分で温度差ができているため、長時間の点灯で石英ガラスに熱歪みが発生する。熱歪みの値が大きくなった場合、点灯中に石英ガラスにクラックが入り、破損につながることがある。

③長寿命化を実現するために

  • ● 電極設計:熱的負荷を低減するよう電極設計を改良し、寿命中の電極摩耗を低減した。
  • ● ランプの構成材料:ランプを構成する各部材の高純度化を図り、不純物のきわめて少なくした。
  • ● 製造プロセス:ランプ製作工程での熱処理プロセスを改良することで不純ガス成分を除去している。
  • ● 封入ガスの最適化:ランプに封入するガス量の最適化により、ハロゲンサイクルが有効に機能し、発光管内壁へのW附着による黒化を抑制し、発光管の寿命中の透明度を維持する。

以上の改善によって、寿命(照度維持率50%)は従来の2倍にまで延長することができている。(弊社比)

図4-39 累積点灯時間(h)

(3)その他の特性

①破裂について

ランプ封止部の耐圧向上のために

  • ● 金属箔形状の改良:これまで電極溶接部と金属箔との間に生じる空隙部が封止部の耐圧を弱める要因となっていた。この空隙を極力小さくするためにこれら溶接部分の形状を小幅化し、封止部の耐圧向上としていいる。
  • ● 新規封止方法の採用:動作時の電極の熱膨張によって、封止部のガラスが応力を受けないように電極とガラスの間に微小な空隙を形成する封止方法。これにより動作時も封止部が高い耐圧力性を維持することができるようになった。

表4-5 封止部耐圧性向上による効果
※ 集計対象:生産対応開始から累計20000本についての調査データ

②フリッカについて

アークの安定性を確保するために

  • ● 水銀未蒸発の抑制:動作時、外部から冷却風を受けランプは冷やされるが、発光管内の最冷部温度が低くなり過ぎると、そこに封入されている水銀の一部が凝集し、不規則な蒸発・凝集を繰返す。そのとき、同時に水銀蒸気圧力の変動が繰り返し起きておりアークも不安定状態で、輝度変化やアーク輝点の移動が生じてしまう。これを解消するため、プロジェクタ内の冷却設計は非常に重要なものになる。
  • ● また、ランプ設計としては、明るさ向上と併せて発光管の小径化を進めている。小径化を図ることでランプの最冷部温度を従来設計より高温域に管理できるようになり、水銀未蒸発の発生抑制効果が得られる。小径化を進めていく上では上述の寿命特性を改善する方策を採っていくことで全ての条件が満足できる設計となっている。
  • ● 電極設計:上述の通り、熱的負荷を考慮して寿命中の経時的な電極摩耗を抑えている。それによって、寿命中も安定した電極先端位置でアークが成り、定常的に安定した放電が得られる。

4.4.5 点灯方式

点灯方式はAC点灯が一般的である。しかし、フリッカや電源のコストを考えると、DC点灯にメリットがある。ACとDCとではフリッカ発生の仕方は大きく異なり、DC点灯方式なら、特殊な点灯回路を付加しなくても、フリッカが少ないが、AC点灯では点灯波形の工夫や、点灯周波数の調整により問題解決を図っている。AC点灯電源はDC出力を得た後にACにもう一度変換していることを考えれば、DC点灯電源にすることによって小型化、コストダウンも可能であることがわかる。さらに光束の変化もDC点灯方式の変化が極めて単調に変化するのに対して、ACは数時間オーダーで数%以上変化し、安定度が求められる用途には向かないこともわかってきている。

4.4.6 始動方式

従来始動には14kVから20kVの高圧を印加してきた。プロジェクタの小型化に伴って、バラストの小型化、ランプハウス周りの小型化を図るために、外部トリガ方式とUVセルの併用を進めている。外部トリガー方式の概念を図4-40に示す。

外部トリガーを採用することにより、始動時の昇圧のためのコイルに定常点灯時の電流が流れなくなるため、昇圧コイルを小型軽量なものに変更できるようになった。さらにハウスプラグまでのバラストからの配線には最高でも1kVしかかからなくなったため配線の取り回しが容易になった。

本来超高圧水銀灯は高圧の印加時間が長ければ絶縁破壊電圧そのものは数kVであり17kVまでの高圧は必要としない。しかしながら限られた短時間内(数秒)に始動させるには絶縁破壊を引き起こす種となる電子を放電空間中に数多く供給する必要がある。過去から放射性元素を使う方法や紫外線を供給することにより低電圧始動のランプが照明用に商品化されてきている。放射線を用いる方法は、環境に対する配慮からふさわしくないと考えられるため後者を採用している。他のメーカではセルをシール部内に作りこむ方法5)をとっているが、高圧動作ランプにおいてシール部の信頼性確保は第一であり、別にUVセルを反射鏡の構造に組み込むことで対応している。

図4-40 外部トリガー方式の概念

4.4.7 技術動向

超高圧水銀ランプは輝度が高く、理想に近い光源といえるが、映像用光源としては赤の演色性に課題がある。動作圧力を増加すれば、輝度がアップし、演色性も改善されるが、耐圧力に対する信頼性の向上が必要となる。プロジェクタのパネルサイズは小型化しているため、アーク長も短くしなければならない。1mm以下になるのは確実である。寿命については10,000時間が当面の目標となろう。電力は300W程度が当面の目標である。また価格が20万円をきるようなプロジェクタが市場に現れてきており、ランプとバラスト(点灯電源)のコストダウンも大きな課題である。

(杉谷 晃彦、田川 幸治)

4.5 キャピラリーランプ(毛細管型超高圧水銀ランプ)

4.5.1 構造

キャピラリーランプとは、内径2mm・外径6mmの石英ガラスチューブに水銀を1g程度封入した毛細管型放電灯の呼称である。

ランプの模式を図4-41に示す。水銀は過剰に封入されている。点灯時に蒸発する水銀は封入水銀の一部(点灯時の水銀蒸発量は発光管1cm当たり1.5mg程度)である。未蒸発の液体水銀はランプ両端にほぼ等量留まる。水銀溜まりは、タングステン電極の先端温度を適切化する、あるいは封止部を耐熱温度まで下げる役割を担っている。

電極突出長の長短で、動作時の水銀蒸気圧が変わる。この特性を生かし、突出長を変えることで、ランプ電圧を制御することが可能である。

なお、ランプを装置に取り付ける際、水銀を左右均等に振り分けておく必要がある。この振り分け作業が容易に行えるよう、電極先端近傍の石英ガラスに、凸状の内部突起がもうけられている。図4-42参照

図4-41 キャピラリーランプの模式図(水冷タイプ)

図4-42 電極近傍図

4.5.2 特性

ランプは水冷もしくは空冷で点灯され、電源にはリーケージトランスが使用されている。ランプ電流はAC1.8A程度、電位傾度は20V/cm~25V/cm、入力は30W/cm~35W/cmである。

点灯時の水銀の蒸気圧はおよそ5MPaになる。1)

石英ガラスの内面と外面の温度差は1000°C強になり、この温度差によって石英ガラスの外表面に20Mpa程度の熱応力(張力)が発生する。ランプの両端を保持する際、ガラスチューブに曲げモーメメントやネジリモーメントが発生すると、熱応力との合力でガラスチューブが破損する。ランプの取り付け方法は上記モーメントが発生しないよう工夫しなければならない。

キャピラリーランプは点滅点灯が可能であり、始動から定常出力に至る時間は10秒弱である。点滅にともない、電極先端近傍のガラス内壁が失透(結晶化)し、微細なクラックが進行する。一般に、1万回程度の点滅点灯(10秒on-10秒offの点滅サイクル)で、ランプは上記クラック部分から破損する。

連続点灯の使用可能時間は、300~400時間である。主に出力の減衰が耐久時間を決める因子である。

4.5.3 分光分布

ランプの分光エネルギー分布を図4-43に示す。

図4-43 キャピラリーランプの分光エネルギー分布

4.5.4 用途

キャピラリーランプは、i線(365nm)、h線(405nm)、g線(436nm)の放射効率が高いといった超高圧水銀ランプの一般的な特徴以外に、

①点滅点灯が可能であり、始動直後から定常出力に達するまでの時間(安定時間)が短いこと。(10秒弱で安定する。)

②細管放電を光学的に線光源として利用できること。が特徴である。

①の特徴を生かし、発光長90mmから200mmの水冷タイプランプがプリント配線板の露光2)3)に使用されている。

半導体の露光、ブラウン管の3色露光と蛍光体露光4)には、線光源としての特長が利用されている。前者には発光長80mmの半円弧ランプ(空冷タイプ)が使用されている。後者には発光長が20mm程度のランプ(空冷タイプ)が使用されている。なお、ブラウン管の精細度の向上にともない、ショートアーク型の超高圧水銀灯も使用され始めた。

その他の用途として、アレキサンドライトレーザーの励起用光源として検討されたが、実用化に到っていない。

(大久保 啓介)

4.6 高圧水銀ランプ

4.6.1 ロングアークランプ

(1)原理

発光管の両端部には、電子を放出する1対の電極が向い合ってとりつけられており、発光管の中には始動ガスの希ガスと水銀が封入されている。

ランプ点灯時には、電極両端に始動電圧がかけられ、電極間で絶縁破壊し、アークが成長する。このアークが成長するにつれ、発光管の温度が上昇し、室温で発光管壁に凝集していた水銀が蒸発する。蒸発した水銀はプラズマ中で電子やイオンと衝突し、水銀が励起したり電離したりする。励起した水銀は、基底状態、または準安定状態に戻るときに、そのエネルギーに見合う放射が放出される。

(2)構造

高圧水銀ランプを構成する主な材料は、石英ガラス、タングステン、モリブデン、水銀、希ガスの基本材料と、ランプ取り付け部分を構成する口金、リード線などである。

(3)特性

①光学特性

250-320nm、365nmに比較的強い放射がある。高圧水銀ランプの分光分布を図4-44に示す。

図4-44 高圧水銀ランプの分光分布(160W/cm入力)

②寿命特性

点灯モードや使用環境により、寿命特性は変わるが、定格最大入力4時間、消灯15分サイクルで、上記紫外放射領域において、初期エネルギー値の70%までに要する時間は平均1500時間である。

(4)用途

液晶基板の「滴下貼り合わせ方式」での硬化、ハードニング、CD・DVDの貼り合せ、紫外線硬化型のインキ、塗料、接着剤の硬化・乾燥に使用される。

これは主に接着とクリアコートが目的である。

(5)点灯装置

①点灯装置の基本機能

点灯装置としての基本機能はキセノンランプや超高圧水銀ランプの装置と同じで、

a. ランプの中に放電経路を作り、電流が流れるようにする

b. ランプに適正な電流を供給し、過大な電流が流れないようにする

の二つである。詳細はキセノンランプの点灯装置の項を参照いただきたい。ただし、キセノンランプや超高圧水銀ランプは直流で点灯させるが、高圧水銀ランプは交流点灯で使用されるため、それらとは異なった回路を用いる。

②点灯装置の動作

高圧水銀ランプの点灯装置には種々の方式があるが、代表的なリアクター方式を例にとって説明する。これは、一般家庭にある蛍光灯や、照明用水銀ランプの安定器と同じ回路である。図4-45に基本的な回路を示す。交流電源とランプの間にリアクター(L)を入れただけの簡単な回路である。この回路の特性は図4-46のように表現される。A点は点灯装置の出力端を短絡したときに流れる電流を示す。B点はランプ電流が流れないときにランプの両端にかかる電圧を表しており、無負荷時出力電圧とか開放電圧と呼んでいる。ランプが始動した直後はランプの温度が低いため水銀が蒸発しておらず、ランプ電圧が低い。そのため、動作点は図4-46のC点にある。点灯を続けると、ランプ内温度の上昇→水銀の蒸発→ランプ電圧の上昇→ランプ電流の減少という過程を経て、動作点は図4-46のD点に向かって移動する。さらにランプ電圧が上がると、ランプ電流の減少→ランプ電力の低下→ランプ温度の低下→ランプ電圧の低下となり、結局D点で安定する。これが、点灯装置の基本機能である。

図4-45 リアクター方式回路図

図4-46 リアクター方式特性曲線

③点灯装置の種類

上記のように単にランプを安定に点灯させるだけならリアクター方式で良いが、用途により色々な要求があり、いくつかの方式が実用化されている。

a. 抵抗方式

図4-47は限流素子として抵抗を用いた一番簡単な回路である。安価で軽量であるが、抵抗自体が発熱し、効率が悪い。しかし、ランプの点灯時間が短ければ効率はあまり問題にならず、安価で軽量にできるため、今でも製販用として使用されている。

図4-47 抵抗方式回路図

b. リアクター方式

図4-48は②で説明した回路であるが、ランプ電圧に応じて昇圧トランスを組み合わせることもある。この回路は

ア.点灯初期に大電流を流し、ランプを短時間で安定させることができる

イ.リアクターをイグナイター用高圧トランスとして利用することができる

というメリットがあるため、製版用光源や当社のラピッドキュアという製品に多用されてきた。一方、電源電圧とランプ電圧の変動による影響を受けて、ランプ電力が変動するという欠点をもつ。

図4-48 リアクター方式回路図

c. リーケージトランス(漏れ変圧器)方式

図4-49のリーケージトランスとは、トランスの1次巻き線と2次巻き線の間に、意図的に漏れ磁束用磁気回路を設けたトランスである。この漏れ磁束用磁気回路をパスコアと呼んでいる。このリーケージトランスの概略図を図4-50に示す。電気的にはトランスとリアクターを一体にした機能を持つ。このため、上記bに述べたリアクターとトランスを組み合わせた回路より、安価に製作できる。弊社のユニキュアシステムでは、リーケージトランスにリアクターを組み合わせて、ランプ電力の切り替えを行うことが多い。

図4-49 リ-ケージトランス方式回路図

図4-50 リ-ケージトランスの形状

d. 鉄共振方式

図4-51はリーケージトランスとコンデンサとランプを直列に組み合わせた点灯装置であり、鉄共振方式と呼んでいる。このトランスの2次側巻き線はコンデンサと共振し、2次側の磁心は飽和している。電源電圧が変動しても、ランプ電力がほとんど変化しないことが特徴である。うまく設計された鉄共振方式の点灯装置は、電源電圧が10%変化してもランプ電力が2%しか変化しないという特徴をもっている。ランプ製作時にランプ電圧のばらつきを狭い範囲に限定することができれば、電子回路を用いることなく、ランプ電力を精度よく制御できる。従来は青焼コピーマシンの点灯装置として大量に使用されたが、最近では光化学用、キュア用などに使用される程度で、使用量が減少している。

図4-51 鉄共振方式 回路図

e. スイッチング方式

図4-52のような小型で制御がしやすいスイッチング方式の点灯装置が多用されている。回路は直流の点灯装置の後段に、交流化のためのブリッジ回路を追加したものと考えればよい。ランプ電流の制御は電源周波数ではなく、高周波(通常20kHzから100kHz)で行うので、点灯装置を小型軽量にすることができる。ランプへ供給する交流の周波数は任意に設定できるが、弊社では50Hzに設定することが多い。

この回路はCPUと電子回路を組み合わせて、自由に制御特性を変えることができる。図4-53に安定時の特性をランプ電圧にかかわらず定電力にした例を示す。制御回路に光出力をフィードバックさせれば、ランプの劣化を補償して、光出力を一定に制御することができる。欠点は、回路が複雑で、リアクター方式などと比べると信頼性が低いことである。

前述のbからdの点灯装置のランプ電流は交流電源の周波数や電源電圧変動の影響をうけるが、この方式はその影響がないのも特徴である。

図4-52 スイッチング方式回路図

図4-53 スイッチング方式特性曲線の例

④イグナイタ

DC点灯の場合は、ランプの電極間に放電経路を作るための機能はイグナイタと呼ばれるユニットが受け持っている。(イグナイタは俗にスターターとも呼ばれている。)しかし、高圧水銀ランプ用点灯装置の回路にはこの部分がないことが多い。それは

a. 点灯装置の無負荷時出力電圧が高圧水銀ランプの始動電圧より高い

b. 高圧水銀ランプの中に、始動電圧を低くするための補助電極を設けることができる

などの理由による。

しかし、ランプと点灯装置の組み合わせに応じて、イグナイタ回路が必要となることも有る。その場合は、eのbのリアクタ方式のリアクタと高圧発生トランスを兼用しイグナイタを構成したり、キセノンランプ用のイグナイタ回路を使用してランプを始動させる。

(布施 哲夫)(点灯電源:杉本 洋利)

4.7 低圧水銀ランプ

4.7.1 低圧水銀ランプの原理と構造

低圧水銀ランプは水銀原子の共鳴線である波長254nmまたは185nmの紫外線を最も効率よく得るために、定常点灯中の水銀蒸気が1Pa前後となるように設計された放電ランプである。始動用ガスとして圧力数torrの稀ガス―主にアルゴンガス―が封入される。低圧水銀ランプは入力電力から水銀原子の共鳴線への変換効率が非常に高く、放電管内での変換効率は60%にも達する。低圧水銀放電を応用した放電ランプには、水銀の共鳴線を直接利用する殺菌灯や表面処理用ランプ(アッシャー用ランプ)と、水銀の発光する共鳴線を蛍光体により所望の波長の光に変換して使用する蛍光ランプとがある。(狭義には透明型ランプを低圧水銀ランプという。)

図4-54に代表的な低圧水銀ランプである殺菌ランプの構造例を示す。発光管は波長254nmの水銀原子の共鳴線を透過できる特殊ガラスでできている。電極は酸化バリウム系の電子放射物質を塗布したタングステン線である。

低圧水銀ランプの管壁は水銀の蒸気圧約1Paが得られる40~60°Cの最冷部を確保する必要がある。したがって低圧水銀ランプの管壁負荷(入力電力を管壁面積で割ったもの)はかなり小さい必要があり、高圧放電ランプに比較すると小出力になる。また低圧水銀ランプはアークの電界強度が約1Vと低いため効率を上げるためにはランプ電圧を高めるべく、アーク長を長くする必要がある。

低圧水銀ランプは低負荷のため高輝度は得られない。したがって低圧水銀ランプの発光は光学的な制御性が悪い。低圧水銀ランプの光学制御性を比較的良くする方法はキャピラリー型(小直径)にするか、一部を残して反射面を形成するスリット型にするかである。前者は液晶用バックライトで行われており、後者は複写機用読み取り光源で行われている。

図4-54 低圧水銀ランプの構造例(殺菌ランプ)

4.7.2 低圧水銀ランプの分類と用途

低圧水銀放電を応用したランプには水銀原子の発光する紫外線をそのまま使用するランプと、水銀原子の発光する紫外線を別の波長の光に蛍光体で変換して利用するいわゆる蛍光ランプとがある。蛍光ランプには非常に多くの応用製品がある。図4-55に低圧水銀ランプの応用製品の例を示す。

蛍光体を使わない純粋な低圧水銀ランプとしてはアーク放電型の殺菌ランプと表面処理用ランプが代表例である。殺菌ランプは波長254nmの紫外線を透過できる特殊ガラスを使用する場合が多いが、水殺菌用などの高出力が必要な用途には石英ガラス製ランプを使うこともある。表面処理用ランプには水銀が発光する波長185nmの真空紫外線を透過できる石英ガラスが使用される。なお、水銀の波長185nmの共鳴線は254nm共鳴線よりも水銀蒸気圧が少し高いところに最適蒸気圧があり、それに対応し高入力化ができる。

グロー型低圧水銀ランプの応用としてネオンサインと一緒に使用される青色サインランプがある。これは水銀原子の可視域のスペクトル線を活用するランプである。

ちなみに蛍光ランプにもアーク放電型とグロー放電型とがある。さらにアーク放電型蛍光ランプを用途的に分けると一般照明用ランプと、複写機用ランプ、光化学用ランプ、健康線ランプなどの特殊用途ランプに分けることができる。一般照明用蛍光ランプはさらに形状的または機能的に線形、環状などの普通の蛍光ランプや、電球型蛍光ランプ、コンパクト蛍光ランプ、高周波点灯専用ランプなどに分けることができる。

なお、電球型蛍光ランプは安定器を内蔵し、白熱電球のねじ込みソケット(エジソンソケット)に差し替えが可能なランプである。安定器を別置きにし、ランプ部分だけをピンソケットで交換するタイプはコンパクト(型)蛍光ランプと呼ばれる。

グロー型蛍光ランプの応用製品として以前は蛍光サインが主なものであったが、最近は液晶用バックライトとしての利用が非常に増えている。液晶用バックライトには以前にはアーク放電型のものが使われたこともあるが、現在では長寿命で細管にできるグロー放電型蛍光ランプが主流になっている。

図4-55 低圧水銀ランプの応用製品

4.7.3 低圧水銀ランプの点灯回路

一般に放電ランプは放電を開始させるために高電圧をかける必要があり、また放電開始後には放電電流を制限するための電流制限素子を必要とする。これらの二つの機能をもつランプ点灯回路を安定器または点灯装置と呼ぶが、低圧水銀ランプの点灯回路にも他のランプと同様に銅鉄型安定器と電子回路型安定器とがある。銅鉄型安定器にはチョーク安定器と磁気漏洩変圧器とがある。電子回路型安定器としては1石式や2石式の高周波点灯安定器が代表的なものである。電子回路型安定器は銅鉄型安定器に比較して一般に高価であるが、軽量なほかにランプ効率が良くなり、またランプの寿命が長くなるなどの長所をもっている。

4.7.4 低圧水銀ランプの理論解析

低圧放電中の電子、イオン、励起原子などの密度分布や電子エネルギー、発光スペクトルを理論的に計算するには、定常状態を仮定しても、なお多くの基礎データを必要とし、かつ非常に複雑な計算をする必要がある。必要な基礎データは電子エネルギーの関数としての原子、イオンの衝突断面積や、原子の電離断面積、励起断面積などである。近年、コンピュータの記憶容量の増加や計算速度の発達と、多くの基礎データの集積とにより、多くの時間と十分な費用をかければかなり良好な模擬計算(シミュレーション)が可能にはなった。

(東 忠利)

4.8 キセノンマーキュリーランプ(Deep UVランプ)

(1)原理

ランプの中には、水銀と希ガス(キセノンガス)が封入されている。短波長の放射を増大させるために、封入させる水銀量は、超高圧水銀ランプに較べ少量となっている。陰極と陽極の間に数アンペアから百数十アンペアの電流を流すと、電極間に放電プラズマ(アーク放電)が発生し、その中には、荷電粒子と封入ガス粒子の励起状態が存在する。放電プラズマ中で生成される放射は、励起状態からの遷移に伴う放射と荷電粒子の制動放射による放射とから成る。そして、それらの放射はランプのバルブを通してランプの外へ出て行く。この放射が光として利用される。

基本的に、超高圧水銀ランプと同じ動作原理で動作しているので、詳細は4.3を参照されたい。

(2)構造

ショートアークの超高圧水銀ランプと類似構造を持つので、その項を参照されたい。

UXM-501MDの外観写真をキセノンマーキュリーランプの一例として、図4-56に示す。超高圧水銀灯では通常水銀の未蒸発を防ぐためにバルブ際の部分に保温膜が施されているが、キセノンマーキュリーランプの小型ランプでは、この写真の例のように保温膜が施されていない場合がある。

キセノンマーキュリーランプは、陽極を上にした姿勢で点灯されるのが標準的である。

図4-56 UMX-501MDの外観写真

(3)特性

光学的な特性では、超高圧水銀ランプに較べ400nm未満の短波長域の放射量の比率が大きい。一般に、短波長の光ほど物質の吸収係数が大きい。したがって、バルブの黒化に伴う減衰が大きくなる。

電気的な特性では、キセノンマーキュリーランプは、キセノンランプと同様の低電圧で高電流の電気特性を持っている。陽極と陰極の間の電位差であるランプ電圧(V)は、近似的に電極降下電圧とアーク柱の電位傾度による電圧との和として表わされる。即ち

ここで、VFは電極降下電圧を表わし通常10V前後であり、Eはアーク柱の電位傾度(電界強度)、dは電極間距離を表わす。(4.8.1)式から、電位傾度(アーク柱の電界強度)は

と変形される。今、キセノンマーキュリーランプのランプ電圧と超高圧水銀ランプのそれとを比較してみると、キセノンマーキュリーランプの電位傾度は超高圧水銀ランプのそれに較べ小さい傾向にある。即ち、キセノンマーキュリーランプでは、同じ電極間距離でかつ同じ入力電力に対して電圧が低い傾向にある。これは、キセノンランプと類似の電気特性である。

(4)用途

紫外線を利用する各種露光に用いられている。例えば、半導体の露光工程やプリント基板の露光工程、液晶の光配向などに使われている。

(5)点灯装置

ランプは通常、初期放電破壊を引き起こすためのイグナイタと定常放電を維持するための電源を組み合わせて点灯される。電源としては、しばしば、定電力電源が用いられている。当然、ランプとのマッチングの点で、専用の点灯電源装置が必要である。

(安田 幸夫)

4.9 メタルハライドランプ

(1)メタルハライドランプの原理

メタルハライドランプは高蒸気圧水銀放電中に種々の金属ハロゲン化物(メタルハライド)を添加した高圧放電ランプであり、添加する金属を多様に選べるために非常に変化に富んだ放電ランプがえられる。

金属の中でタリウム、インジウム、スカンジウム、ジスプロシウムなどの金属は魅力的な発光スペクトルを持っているが金属単体の蒸気圧は低く、石英ガラスの耐熱温度範囲では十分な蒸気圧が得られない。ー方、ナトリウム、リチウムなどのアルカリ金属やカドミウム、亜鉛などの金属は比較的蒸気圧が高いが、高温の石英ガラスと反応するため金属単体では使えない。蒸気圧の低い金属はハロゲン化物、例えば沃化物にすることにより発光に十分な高い蒸気圧を得ることができる。ー方、高温で石英ガラスと反応する金属は沃化物にすることにより石英ガラスと反応しなくなる。その結果、金属ハロゲン化物を使用することにより魅力的な発光スペクトルを持ったほとんどの金属が発光物質としての利用が可能になった。また金属ハロゲン化物には化合物分子自身が良好な分子スペクトルを発光する場合があり、これも発光物質として利用することができる。これらの原理を利用したランプがメタルハライドランプである。図4-57に代表的な金属とその金属ハロゲン化物について蒸気圧と温度の関係を示す。メタルハライドランプは用途に合わせて所望のスペクトル域の光を比較的効率よく大出力で発光させることができる特徴がある。

なお、現在ではメタルハライドランプにおける水銀の封入は放電の緩衝ガスとして所望のランプ電圧を得るためと、断熱ガスとして効率を上げることを目的に封入されている。

水銀、金属ハロゲン化物とも常温での蒸気圧は非常に低いので、通常は約0.5気圧以下のアルゴンなどの稀ガスが始動ガスとして封入される。

図4-57 主要な金属と金属ハロゲン化物の温度一蒸気圧特性

(2)メタルハライドランプの種類と用途

メタルハライドランプは用途によって一般照明用ランプと特殊照明用ランプに分けることができる。特殊照明用ランプはさらに光学機器などに使用されるショートアーク型ランプと産業用に使用されるロングアーク型ランプに分けることができる。

一般照明用のメタルハライドランプに利用されている金属ハロゲン化物は、基本的には次の4種類の金属ハロゲン化物である。

(a)Na I + Tl I+ In I(図4-58に分光分布を示す)
(b)ScI3 + Na I(図4-59に分光分布を示す)
(c)SnI2(+ SnBr2)(図4-60に分光分布を示す)
(d)DyI3 + Tl I (+ Na I)(図4-61に分光分布を示す)

図4.58~図4.61にこれらの発光物質を封入したメタルハライドランプの分光エネルギー分布を示す。光学機器用などのショートアークランプには上記の封入物のほかに、

(e)DyI3(+NdI3 ,+TmI3 ,+InI)
(f)NaI +InI
なども使用される。

光化学用などの特殊用途のロングアークランプに使用される金属ハロゲン化物は数多くあるが、一般的なものとして次のようなものがある。

(g)青色ランプ:InI
(h)緑色ランプ:Tl I
(i)赤色ランプ:Li I(+ NaI)
(j)350~450 nm域紫外線用:FeI2+FeBr2
(k)410 nm域紫外線用:GaI3

図4-58[沃化ナトリウム+沃化タリウム+沃化インジウム]封入ランプの分光分布

図4-59 [沃化スカンジウム+沃化ナトリウム]封入ランプの分光分布

図4-60[ハロゲン化錫]封入ランプの分光分布

図4-61[沃化ジスプロジウム+沃化タリウム]封入ランプの分光分布

4.9.1 ショートアークランプ

ファイバー照明などの光学装置や、スタジオ用投射照明器具の光源には一般にアーク長が約8mm以下のショートアーク型メタルハライドランプが使用される。

(1)構造と発光物質

ショートアーク型メタルハライドランプには直流点灯型ランプと交流点灯型ランプとがある。図4-62と図4-63にそれぞれの放電管の概略構造を示す。

直流点灯型ランプは比較的大きい陽極と小さい陰極とを使用するが、交流型では中型の同じ電極を対で使用する。アーク長(電極間距離)は用途と入力電力に応じて直流点灯型で1~5mm、交流点灯型で3~8mm程度に設計される。放電管には無水石英ガラスが使用され、一般に50W/cm2以上の高負荷に設計される。

光学機器用ランプには高演色性が要求されることが多く、発光物質としてジスプロシウム(Dy)を中心とした希土類金属のハロゲン化物が使用される。しかし入力電力50W以下の超小型ランプでは蒸気圧が比較的高い沃化ナトリウム(NaI)と沃化スカンジウム(ScI3)の組合せ、または沃化ナトリウム(NaI)と沃化インジウム(InI)の組合せが用いられる。希土類ハロゲン化物を使用する場合は放電の安定性と寿命特性の向上のためにセシウムハロゲン化物やインジウムハロゲン化物が封入される場合もある。定常点灯時の水銀蒸気圧は数十気圧になる。

図4-62 直流点灯型メタルハライドランプの構造例

図4-63 交流点灯型メタルハライドランプの構造

(2)発光特性と用途

高演色性が要求される光学機器用にはジスプロシウムを中心とした希土類ハロゲン化物が採用される。直流点灯型250Wランプの分光分布の例を図4-64に示す。直流点灯型ランプは交流点灯型ランプに比較して寿命特性が優れ、短アーク化に強いが長所があるが、放電管内の色むらが大きい欠点がある。したがって直流点灯型ランプは光学的積分機能の付いた液晶プロジェクタやファイバー照明用機器に適している。一方、交流点灯型ランプはOHPや各種の投射型照明器具などに適している。

なお液晶プロジェクタ用光源には1989年の発売当初は交流点灯型ショートアークメタルハライドランプが使用され、1995年頃からはショートアーク化に対し寿命特性の優れた直流点灯型ランプが開発され、使用された。その後、さらに輝度特性の優れた超高圧水銀ランプが開発され、液晶プロジェクタ用光源の主流になっている。現在では特殊な液晶プロジェクタにだけにショートアーク型メタルハライドランプが使用されている。

最近では、医療用途として光線力学的治療(PDT)の分野での研究が進んでいる。PDTとは、腫瘍親和性を有する光増感剤を腫瘍組織に特異的に集積させ、特定波長を有する光線を照射することによって生成する一重項酸素によって選択的に腫瘍組織を壊滅する療法である1)。これまで、レーザやキセノンランプ、ハロゲンランプの利用が試みられてきた。しかし、治療面積、光の放射強度やコストなどの問題を考慮し、PDTに適切な放射スペクトルと強度を有するメタルハライドランプ2)が注目されている。特にNa-Liランプは、5-ALAという光増感剤と組み合わせることによって、高い効果を得られることがわかっている。

図4-64 250W 直流点灯型メタルハライドランプの分光エネルギー分布の例

(3)点灯回路

他の放電ランプと同じく、放電を開始させるための高電圧の供給と放電開始後に電流を制限するためのランプ点灯回路が必要である。ランプ点灯回路としては一般照明用ランプに対してはチョーク安定器が用いられることが多いが、液晶プロジェクタ用、OHP用、ファイバー照明用などの装置組込みランプに対しては一般に電子安定器が用いられる。高圧放電ランプ用の電子安定器は音響的な共鳴現象を避けるために交流点灯のためには矩形波交流にする必要があり、商用電源から①高圧直流電圧を取り出し、②チョッパータイプの電流制限回路を経て、③矩形波交流に変換し、④始動高圧パルスを発生する回路を組み合せたものになっている。しかし直流点灯型放電ランプの点灯回路では③の矩形波への変換は必要なく、やや簡単な回路になる。

(東 忠利)

4.9.2 ロングアークランプ

(1)発光原理

基本的な発光原理は、前述の4.6.1に記した原理と同じである。発光管の両端部には、電子を放出する一対の電極が向い合ってとりつけられており、発光管の中には始動ガスの希ガスと水銀と金属ハロゲン化物が封入されている。ランプ点灯時には、電極両端に始動電圧がかけられると、電極間で絶縁破壊し、アークが成長する。このアークが成長するにつれ、発光管の温度が上昇し、室温で発光管壁に凝集していた水銀と金属ハロゲン化物が蒸発する。蒸発した水銀と金属ハロゲン化物はプラズマ中で電子やイオンと衝突し、水銀とハロゲン化物として封入された金属が励起したり電離したりする。励起した水銀とハロゲン化物として封入された金属は、基底状態または準安定状態に戻るときに、そのエネルギーに見合う放射が放出される。図4-65に金属ハロゲン化物の放電開始後の振る舞いを示す。

図4-65 金属ハロゲン化物の放電開始後の振る舞い

(2)構造

メタルハライドランプを構成する主な材料は、石英ガラス、タングステン、モリブデン、水銀、金属ハロゲン化物、希ガスの基本材料と、ランプ取り付け部分を構成する口金、リード線などである。メタルハライドランプの外観図を図4-66に示す。

図4-66 ロングアークメタルハライドランプの外観

(3)特性

①光学特性

350-400nmに強い放射があるメタルハライドランプの分光分布を図4-67に示す。

②寿命特性

点灯モードや使用環境により、寿命特性は変わるが、定格最大入力4時間、消灯15分サイクルで、上記紫外放射領域において、初期エネルギー値の70%までに要する時間は平均1500時間である。

図4-67 メタルハライドランプの分光分布(160W/cm入力)

(4)用途

紫外線硬化型の顔料が入ったインキ・塗料、塗膜の厚いものの硬化・乾燥に使用される。具体的には、清涼飲料缶のメタル印刷、紙器印刷、熱をきらうプラスチックカード印刷、汚れをきらうビジネスフォーム印刷、電子部品の接着、表面保護フィルムの乾燥などである。

(5)点灯装置

点灯装置は高圧水銀ランプ用と同様である。

(布施 哲夫)

4.10 外部電極式希ガス蛍光ランプ

4.10.1 用途・構造・原理

外部電極式希ガス蛍光ランプはガラス管の外部に一対の電極を持ち、内部にはキセノンを主体とした希ガスを封入した蛍光ランプで、デジタルPPCやスキャナー等の読み取り用光源として開発されたランプである。外部電極式希ガス蛍光ランプの構造を図4-68に示す。

外部電極式希ガス蛍光ランプは反射型のランプである。このため、ガラス管の内部に塗布した蛍光体の一部は除去され、光を取り出す窓(アパーチャ)を持つ構造となっている。電極はガラス管の外面に位置し、光をより効率的に取り出すために、その外側に反射膜を形成させている。ランプ全体はランプ破損時のガラス飛散防止のためチューブで覆われている。ガラス管内部にはキセノンを主体とした希ガスを封入している。このランプの発光はキセノンエキシマからの真空紫外線による蛍光体の発光によるものである。このため、水銀蛍光ランプと比較して周囲温度の依存性が少なく、瞬時点灯、光束安定性等の優れた特長をもっている。また、環境面から見ても、水銀を含まず環境に優しいランプであることがわかる。

次に、外部電極式希ガス蛍光ランプの放電から発光までの原理を簡単に説明する。図4-69は放電から発光までを簡単に示した模式図である。

印加させる電圧波形は正弦波が一般的であるが、より光量を必要とする場合、パルス状の電圧波形を用いる。ここでは正弦波を用いたときの放電状態について説明する。

まず、電極に電圧を印加させるとガラスに誘電体分極が生じ、ガラスを通して放電空間内に電圧が発生する。放電空間内の電圧が放電開始電圧に達すると放電が始まる。正イオンは負極側に、電子は陽極側へ移動し蓄積される。この蓄積電荷によって、放電空間内の電圧が放電維持電圧以下になると放電が休止する。次に逆極性の電圧を加えると、直前の放電の残留電荷による電圧のため、より低い電圧で放電が開始する。正弦波点灯の場合、この繰り返しとなる。図4-70はこの放電形態での外部電極式希ガス蛍光ランプの真空紫外線の放射スペクトルである。

図4-70からわかるようにスペクトルはキセノンの共鳴線である147nmのピーク強度は無く、キセノンエキシマから放射される172nmの1つのピークからなることがわかる。外部電極式希ガス蛍光ランプではキセノンの封入ガス圧が高いために、蛍光体を励起する真空紫外線はキセノンの147nm共鳴線より、エキシマから放射される172nmの真空紫外線が支配的である。以下に3体衝突によるエキシマ生成過程と真空紫外線の放射過程を示す。

1個の準安定原子と2個の基底原子の3体衝突によりエキシマは生成されるが、希ガス分子の基底状態は不安定で、すぐに2個の基底原子に解離する。このとき172nmのエキシマ放射が生じる。一般的に、ガス圧を高くすることにより172nmの放射強度は増加するが、不点灯、ちらつき等の問題が発生する。

キセノンエキシマより放射された真空紫外線は、ガラス内表面に塗布した蛍光体を励起させ、可視光を発光させている。一般的に、外部電極式希ガス蛍光ランプ用の蛍光体は、赤色蛍光体として(Y,Gd)BO3;Eu、緑色蛍光体としてLaPO4;Ce、Tb、青色蛍光体としてBaMgAl10O17;Eu等を使用している。外部電極式希ガス蛍光ランプに求められる蛍光体の特性としては、高輝度、光束安定性が挙げられる。青色蛍光体は赤色蛍光体、緑色蛍光体に比べて輝度、光束安定性が不十分であり、今後、更なる品質改善が必要である。

図4-68 ランプ構造図

図4-69 放電から発光までの模式図

図4-70 キセノンエキシマからの放射スペクトル

4.10.2 特性・光学系

外部電極式希ガス蛍光ランプの光学特性について説明をする。外部電極式希ガス蛍光ランプの光学特性の評価項目は、照度特性、照度分布特性、分光特性等であり、以下に各特性の評価方法を示す。図4-71は照度特性の評価方法である。照度計はミノルタ製照度計(T-1M)を使用し、ランプ管表面と照度計の距離は8mm、角度は±3°である。通常、照度特性はランプを点灯させ、照度が安定した3分後の照度計の値を評価する。

図4-72は照度分布特性の評価方法である。照度計の前面にランプ軸方向に対して垂直になるようスリット(1.5mmx10mm)を設け、ランプ軸方向に照度計を移動させることにより、ランプ軸方向の照度分布の評価を行う。

図4-73は分光特性の評価方法である。分光器は大塚電子製MCPD-1000である。通常、分光特性はランプを点灯させ、光量が安定した3分後の値の評価を行う。

図4-71 照度測定法

図4-72 照度分布測定の受光部形状

図4-73 分光測定法

(1)環境安定性

環境安定性とはランプ照度の周囲温度による影響を評価したものである。図4-74に0°C~50°Cまで周囲温度を変化させたとき外部電極式希ガス蛍光ランプの照度特性を示す。図.7より周囲温度が0~50°C変化したときの光量変化率は±3%であり、周囲温度の影響を受けにくいランプであることがわかる。

図4-74 環境安定性(発光色:緑)

(2)照度分布特性

図4-75にA3タイプの外部電極式希ガス蛍光ランプの照度分布特性を示す。一般的にA3原稿を読み取る場合、有効な露光長さ(有効発光長)は±150mmである。この時、原稿面の±150mmの照度はランプ中央照度より低下し、縮小光学系の場合、レンズ透過後のランプ端部の光量はレンズのCOS4則に従って更に低下する。このため、両端の光量を中央よりアップさせた照度分布特性が望まれる。

図4-75 照度分布特性

(3)分光特性

図4-76、図4-77に発光色がイエローグリーンとホワイトのランプの発光スペクトルを示す。

イエローグリーンのランプはモノクロ読み取り用でホワイトのランプはカラー読み取り用である。ホワイトのランプについては、赤、緑、青色蛍光体の比率を変えることにより、CCDの感度曲線に合った発光スペクトルにすることが可能である。発光スペクトルを見てわかるように、わずかではあるが、800~1100nmに赤外域の発光がある。このため、カラー用読み取り光学系では赤外カットフィルターが必要とする場合がある。

図4-76 イエローグリーンタイプの発光スペクトル

図4-77 ホワイトタイプの発光スペクトル

(4)周方向照度分布

図4-78に外部電極式希ガス蛍光ランプの径方向の照 度分布を示す。図4-78よりアパーチャの開口部を中心 に高い照度が得られることがわかる。

図4-78 ランプ径方向照度分布

4.10.3 点灯装置

外部電極式希ガス蛍光ランプは、図4-68に示すような構造であるので電気的には概ねコンデンサと等価である。点灯波形としては、正弦波あるいは急峻な立ち上がり、立ち下がりを有する波形が印加される。

正弦波を印加する手段としては、一般に冷陰極水銀ランプで使用されているロイヤー方式が一般的である。前述したように外部電極式希ガス蛍光ランプは、概ねコンデンサと等価であるために冷陰極水銀ランプの点灯回路に用いられるようなバラストコンデンサの役目をランプ自身が担っているため、不要である。この回路方式は、回路およびランプの制約上、15W程度の電力までが一般に使用されている。この方式で実現できる照度は、イエローグリーンタイプで25,000 lxとホワイトタイプで15,000 lx程度である。

次に急峻な立ち上がり、立ち下がりを有する波形を実現する方式としては、フライバック方式を利用したものがある。このランプの特徴は、電圧変化に応じてランプに電流が流れる。その電圧時間変化率が大きいほど電流のピーク値が高くなり、照度が高くなる。しかしながら、電圧時間変化率が大きい、電流のピーク値が高いということは、スイッチ素子として使用する部品の効率やEMIの点から、回路としては好ましくない面がある。したがって、ランプの発光効率と点灯回路の電力効率の最適化を図る必要がある。この回路方式は、回路の制約上、30W程度の電力までである。この方式で実現できる照度は、イエローグリーンタイプで70,000 lx、ホワイトタイプで35,000 lx程度である。

前述の急峻な立ち上がり、立ち下がりを有する波形を実現する方式としてプッシュプル方式がある。ランプ発光のための必要条件は、フライバック方式と同様である。この回路方式は、さらに大きな電力を扱うことが可能である。現在、60W程度の電力までのものがある。さらに大きな電力にも適用できる。この方式で現在、実現できる照度は、消費電力60W、ホワイトタイプ:100,000 lx程度である。

いずれの回路方式においてもランプが回路部品の一つを構成するためにランプの仕様に応じて回路素子の調整を行う必要がある。

それぞれの回路の概要を図4-79~4-81に示す。

なお、このランプへの投入電力は、前述のようにコンデンサに類似した電圧-電流の位相がずれること、およびランプに印加される電圧が2,000V0-P程度であることから簡易な方法で測定することができない。このため電力としては点灯装置の入力電力で表記する。

(井上 正樹)

図4-79 正弦波点灯方式 回路例

図4-80 急峻な立ち上がり、立ち下がりを有する波形フライバック点灯方式 回路例

図4-81 急峻な立ち上がり、立ち下がりを有する波形プッシュプル方式 回路例

4.11 誘電体バリア放電エキシマランプ

4.11.1 発光原理

(1)エキシマの生成と発光の原理

エキシマ(Excimer)とは、一般に励起状態(エネルギーの高い準安定状態)にある多原子分子のことを指し、通常は2原子分子ではXe2*(キセノンエキシマ。ここで、*は励起状態にあることを表す)、Kr2*(クリプトンエキシマ)、Ar2*(アルゴンエキシマ)などの希ガス2量体や、KrF*(フッ化クリプトンエキシマ)、ArF*(フッ化アルゴンエキシマ)、KrCl*(塩化クリプトンエキシマ)、XeCl*(塩化キセノンエキシマ)などの希ガスハロゲン化物などのエキシマを指すことが多い。

Xe2*を例にとり、図4-82を用いてエキシマの生成と 発光の過程を簡単に説明する1)

放電空間中のXe原子は、放電プラズマ中の電子(e)により励起(Xe*、Xe**)或いは電離(Xe+)される。更にこれらとXe原子との様々の衝突過程を経て、エキシマ発光の基となるXe2*が生成される。Xe2*の寿命はn秒程度と大変短く、直ちにエネルギーの低い状態に戻り、解離して最終的に安定な状態(基底状態)のXe原子に戻る。この時開放されるエネルギー(E)が、光(エキシマ光;ν=E/h)として放射される。

図4-82 Xe2*のエキシマ光の発光機構

(2)励起源としての誘電体バリア放電の原理

放電を利用したエキシマランプの励起源としては幾つかの方式が提案されている2)が、ここでは図4-83を用いて誘電体バリア放電を励起源としたエキシマランプについて説明する3)。因みに誘電体バリア放電は、活性酸素種であるオゾン(O3)生成用として古くから使用されているもので、別名、オゾナイザ放電或いは無声放電として知られている4)

図4-83は円筒外部放射型のエキシマランプ(構造は後述)と誘電体バリア放電の概略を示したものである。2つの誘電体(石英ガラス)で空間を形成し、この空間に放電用ガスが充填される。2つの誘電体の外側(放電空間で無い側)に電極が配置され、電極間に高周波、高電圧が印加される。この電圧が放電破壊電圧に達すると、放電空間に放電が発生する。しかし、放電路に直列に誘電体が存在するために、誘電体表面に電荷が蓄積されると次の逆電圧が印加されるまで放電は終止してしまう(誘電体のバリア効果)。放電の寿命は数10n秒程度である。この放電プラズマがエキシマ生成の励起源として利用される。

図4-83 誘電体バリア放電の原理

(3)各種エキシマの発光スペクトル

放電用ガスとして希ガス或いは希ガスとハロゲンガスの混合ガスを用いると、図4-84に示す各種エキシマ光の発光中心波長に見られるように、ガス種により色々な波長のエキシマ光を発光させることが可能である5)。ここで現在ランプとして商品化されているものとしては、希ガスXe、Kr、Arを用いた発光中心波長がそれぞれ、172nm、146nm、126nmのもの、希ガスKr、Xeと塩素(Cl)の混合ガスを用いた発光中心波長がそれぞれ、222nm、308nmの5種がある。各エキシマランプの分光スペクトルを図4-85に示す。Ar2*、Kr2*、Xe2*、KrCl*、XeCl*それぞれの発光スペクトルの半値全幅(FWHM)は、10nm、13nm、14nm、2nm、2nmであり、発光スペクトルは実用的に単一波長と考えられる。

図4-84 各種エキシマ光の発光中心波長

図4-85 代表的なエキシマランプの分光スペクトル

4.11.2 構造

(1)ランプの形状

電極が放電空間に存在しない構造が取れるため、点灯時の放電プラズマによる電極へのダメージやスパッタリングによる放電容器内面の汚れの発生が無く、また点滅点灯による短寿命化も心配ない。

図4-86には各種ランプ構造の一例を示す6)。b)は前述の円筒外部放射型のエキシマランプである。ランプは管径の大きな外側管の中に内側管を同軸に配置し、両端を閉じて中空円筒状の放電空間を形成し、内側管の内面と外側管の外面に電極を設け、半径方向に放電を行う方式である。放電空間には必要な発光波長に応じた放電用ガスが充填される。外側管及び内側管は石英ガラス製で、誘電体バリア放電の誘電体の役目と光を取り出すための窓を兼ねており、この場合外側電極を金属網にして、外側管の側面から光を取り出す方式(サイドオン型)にしたものである。電極間に高周波、高電圧が印加されとエキシマが生成し、エキシマ光が放射される。この方式のランプは、複数本配置することで大面積の平面光源とすることも容易に可能である(後述)。

c)は円筒内部放射型のエキシマランプで、b)の構造で外側電極と内側電極を逆転させたものであり、内側管の内面方向に光を取り出す方式にしたものである。この方式のランプは、線状の処理物や流体等の処理に適している。

a)は円筒ヘッドオン型のエキシマランプで、2重円筒管の片端部に光取り出し窓を設け、ランプ軸方向に光を取り出す方式にしたものである。この方式では光取り出し方向の放電プラズマの厚さを厚くできるので、通常のサイドオン型に比べて数倍の強度の光を取り出すことができる。この方式のランプは、小面積高出力の用途に適している。また、短波長126nm、146nmを透過できる窓材、フッ化マグネシウム(MgF2)の採用の時に利用される。この他にも例えば平板の光取り出し窓にしたものや光を取り出す窓を持たないタイプ7)などもあり、処理物の形態や様々な用途に応じたランプ形状が可能である。

図4-86 各種ランプ構造

(2)ランプハウスの構造

誘電体バリア放電ランプは、従来の放電ランプと違い1本のランプにおいて放電面積を増加させるのが容易であること、更に1個の電源で複数本のランプを並列点灯することが可能なので、ランプを複数本並べることにより、容易に高出力、大面積化を達成することができる。図4-87にXe2*ランプを4本並列に並べた平面窓方式で、ランプ間接水冷方式のランプハウスの概略を示す8)。この構造では、金属ブロックを介して間接的にランプが冷却される。またランプとランプの間には山形のミラーが設けてあり、光を有効に取り出すと同時に窓面の放射照度分布を均一にする働きをしている。ランプ、金属ブロック、山形ミラーが収められているランプハウス内は、酸素による真空紫外線の吸収を抑えるために窒素ガスで満たされている。窒素ガスは172nm光を吸収しないため、光を有効に取り出すことができ、また、真空紫外線の吸収により生成した活性酸素によるランプ電極、ミラーの酸化を防止している。ランプ前面には効率良く光を透過する窓ガラス(合成石英ガラス)が設けてあり、窓ガラスよりエキシマ光が照射される。図4-88には現在市販されている平面窓方式のエキシマ光照射装置の写真を示す。

図4-87 平面窓方式のランプハウス構造

図4-88 平面窓方式のエキシマ光照射装置

(3)点灯電源

通常の放電ランプでは、放電電流を増すとランプ電圧が下がる負特性を持っており、これを補うために安定化回路(抵抗、インピーダンス等)を持った電源が必要である。この電源を使えば安定した放電が可能であるが、並列点灯はできない。それは仮に2本同時に並列点灯しようとした場合、片方のランプに電流が集中してしまうからである。一方、誘電体バリア放電エキシマランプでは、前述の通り1個の電源で複数本のランプを並列点灯することが可能である。その理由を以下に述べる7)

放電空間内の放電プラズマでは、各放電柱は互いに独立している。従い、放電柱を分割して図4-89の右図の様に描いても等価であり、これはエキシマランプを並列に点灯している状態に相当する。実際に、太いランプや細いランプなど、色々なランプを1つの電源で並列点灯することが可能である。

市販されている装置の点灯電源は、電圧が数kV、周波数が数10kHz~数MHzの高周波、高電圧を発生させる回路から成っている。高電圧発生部は損失をできるだけ小さくするためにランプハウスの近傍に設置され、ケーブルを介して点灯電源に接続されている。

誘電体バリア放電エキシマランプにも、点灯初期の温度的安定期間、或いは寿命の経過と共に光量が変動するという特性が従来の放電ランプ同様にあった。しかし、光出力をモニタし光量をフィードバックすることにより、光量変動を補正して安定化した光照射を可能とした装置もあり9)、また、個別点灯、調光等、更なる高機能化も図られている。

図4-89 並列点灯の等価

4.11.3 特徴

誘電体バリア放電エキシマランプの主な特徴について、以下にまとめる。

  • ①従来のランプにない185nm以下の短波長を発光可能
    波長180nm以下のVUV(真空紫外線)を効率良く発光可能。
  • ②実質的に単一波長に近い
  • ③高効率
    電力から光へのエネルギー変換効率が高く(172nmで10~40%)、低電力でも大きな光エネルギーを発生。
  • ④瞬時点灯、点滅点灯が可能
    必要な時だけ必要な光エネルギーを照射可能。実用的にメリット。
  • ⑤比較的低温処理が可能
    熱線(赤外線)の発生がなく、短照射時間で済むため、処理物の低温処理可能。
  • ⑥照射取り付け方向が任意
    ランプの点灯方向に制限なし。立面照射等可能。
  • ⑦豊富なバリエーション
    ランプサイズ、形状、発光波長のバリエーションが豊富(放電用ガスに接した状態の金属電極が無いため、ハロゲンなどの腐食性ガスも使用できるため)。

4.11.4 用途

現在商品化されている各種エキシマランプの主な用途例を以下に列記し、LCD及び半導体の分野で応用されているUV/O3洗浄について少し詳しく述べる。

  • ①LCD及び半導体製造各工程前の精密ドライ洗浄(UV/O3洗浄)
  • ②フォトレジスト等の濡れ性向上
  • ③フォトレジストのUVキュア10)
  • ④半導体製造工程でのフォトレジストのアッシング
  • ⑤半導体製造工程の静電気の高速除去
  • ⑥PDP用蛍光体の評価
  • ⑦各種光化学実験

UV/O3洗浄法は、紫外線(UV)と活性酸素種であるオゾン(O3)とを組み合わせた光洗浄法で、精密なドライ洗浄法として広く利用されている。従来は185nm光と254nm光を放射する低圧水銀ランプが用いられて来たが、近年、前述のXeガスを封入した誘電体バリア放電エキシマランプがその特徴を生かし、低圧水銀ランプに置き換わってLCD製造工程のウェット処理や成膜工程等の前洗浄に広く使用され、主流となっている。このUV/O3洗浄の概念を低圧水銀ランプとXe2*エキシマランプを比較して図4-90に示す。

低圧水銀ランプでは185nm光は空気中の酸素に吸収されO3を発生し、254nm光はそのO3に吸収され、更に酸化能力の高い励起状酸素原子(O(1D))を生成する。一方185nm光のような短波長UVは有機物の分子結合を切断する。O(1D)の酸化作用とUVの分子結合切断の協働作用により、有機物は水や炭酸ガスとして酸化分解揮発される11)

一方、172nm光を放射するXe2*エキシマランプの場合は、基本的なメカニズムは低圧水銀ランプと同一であるが、直接O(1D)を生成できること12,13)、及び酸素に対する吸収係数が低圧水銀ランプの185nm光より約20倍と高いことにより14)、照射距離の短い狭い領域に酸化作用の高い活性酸素種を高濃度で生成できること、この効果と172nm光が185nm光より光子のエネルギーが大きいため、有機物の分子結合の切断力が高いことと相まって、従来の低圧水銀ランプより洗浄能力が高いことが予測された。LCD用基板である無アルカリガラス(素ガラス)について、172nmエキシマランプと低圧水銀ランプを使ったUV/O3洗浄の実施例を図4-91に示す。

基板表面の有機汚染に対する評価法としては、最表面分析法である光電子分光分析法(XPS)や、昇温脱離ガス分析法(TDS)などがあるが、これらはいずれも評価に時間がかかることや、分析装置が高価なことなどにより、一般には表面の濡れ性を評価する接触角法が簡易な方法として用いられている。清浄度を示す尺度は純水の接触角度で表され、5度以下が一般の目安となっている。図4-91により低圧水銀ランプに比べて172nmエキシマランプによる洗浄速度は数倍速いことが理解される。

これまで従来の放電ランプにはない数々の特徴を有する誘電体バリア放電エキシマランプについて述べてきた。現在産業用途の主流は、172nmのエキシマ光によるUV/O3洗浄であるが、最近半導体分野にも徐々に導入が検討され始めた。今後172nm光応用の益々の展開、及び172nm以外のエキシマランプにおいても、その特有の特徴を生かした新しい用途が開拓されることを期待する。

(菅原 寛)

図4-90 UV/O3洗浄の概念図

図4-91 UV/O3洗浄の実施例

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