USHIO

(2016.08)
光・量子デバイス研究会

ハイパワー可視域半導体レーザの計測用途への応用

Measurement applications of high power visible laser diodes

小田 史彦、森本 俊一(ウシオ電機)

We have developed a high-power sheet beam illumination source based upon laser diode for fluid visualization measurement such as PIV (Particle Imaging Velocimetry). Properties of this new light source are described in this paper.

キーワード:半導体レーザ, 可視化, 計測, 流体, シートビーム, PIV (Keywords, laser diode, visualization measurement, fluid, sheet beam, PIV)

1.背景

可視域の半導体レーザの性能向上、アプリケーションへの応用開発の進展は目覚ましく、特に映像用途へはレーザの単色性、高輝度、直線偏光といった特徴を活用して、広色域、大光量、高コントラストであることはもちろん、波長差や偏光による3D映像を表現できるプロジェクタ、ディスプレイが開発されている(1)

映像用途にとどまらず、光源としての上記の優れた特性を活かした半導体レーザの用途開拓は広く進展中である(2)。流体の現象理解のための計測には従来からキセノンランプや大型パルスレーザといった大光量光源による「照明」と「高速撮像」の組合せが使われてきた。近年ではレーザによる大光量シート照明と高時間分解能撮像の組合せにより流速ベクトルの空間分布を取得するPIV(Particle Imaging Velocimetry)が広く使われている。PIV用照明にはDPSSが専ら使われているが、我々はこれに代替する、より小型・高効率光源として半導体レーザをベースとした光源を開発した。本論文ではその特徴・特性について述べる。

2.製品の特性

〈2・1〉ウシオ電機のレーザ製品

ウシオ電機では主にシネマ用などの大型プロジェクタ向けのR/G/B高出力レーザを主力製品としている。図1に代表的な製品例として、R/G/Bレーザパッケージの写真を示す。このうちGreenレーザはIR面発光レーザとPPLNによる波長変換の組合せによるもの、Red, Blueは半導体レーザである。大型プロジェクタ用以外にも、高出力、高照度が必要とされる様々なアプリケーションへ展開中である。

図1:ウシオのR/G/Bレーザパッケージ製品 (左からBlue, Green, Red)
Fig.1:Photographs of R/G/B laser package (from left to right: Blue, Green and Red)

〈2・2〉PIV用レーザに必要な特性

PIVは流速ベクトルの空間分布を計測するための手法であり、一般には可視化のため散乱粒子(可視化粒子)を流れ中に混入したうえで、観測したい空間を照明し高速撮像し、粒子の動きを解析することで流速ベクトル分布を取得する。図2に典型的なPIV測定の構成を示す。一般にPIVは解析したい空間の断面をシート状に照明し側方から撮像することで速度(照明平面内の2次元)ベクトルを取得する(3)。高速(=短時間間隔)撮像の為には大きく二つの方法があり、一つは高繰り返しパルスレーザで照明する方法、もう一つはCW照明しハイスピードカメラで撮像する方法である。後者は撮像時間間隔が前者程は短くできず、高速度現象の解析には不向きな面があったが、近年のハイスピードカメラの高性能化を受け、比較的安価にシステムを組めることもあって広く用いられている。このCW照明によるPIVに求められる照明の要求は次のようにまとめることができる、

  1. (1) 出力数100mW~10W程度
  2. (2) シートビーム厚さ 1-2mm程度
  3. (3) 波長 可視、特に緑色が適する

出力への要求(1)は測定(照明)する領域の大きさや、撮像速度にも依存する。当然ながら出力が大きいほど大きな領域、高速度の現象まで照明・撮像可能である。上述のとおりPIVでは解析したい空間の断面照明し、速度(照明平面内の2次元)ベクトルを取得する。この断面照明のために(2)の要求があり、薄い(1-2mm)のシート照明が求められる。(3)の波長については、カメラ感度と目視での感度(カメラ撮像に平行し、現象を目視で観察することも多い)が高いほうが好ましいため、緑色ができしている。

上記の要求を満たす照明光源にはDPSSが一般的に用いられてきた。緑色(532nmが一般的)でハイパワーのものが既に開発されているうえに、(2)のシート化に適した良モードビームが得やすいこともDPSSが用いられてきた理由である。

図2:PIV計測系の構成
Fig.2:Components of PIV system

(2・3〉 ウシオのシートビームレーザ

弊社が開発したシートビームレーザの外観を図3に、主要スペックを表1に示す。 光源としては従来のDPSSに代えて、赤色帯の半導体レーザを用いた。半導体レーザを使用する最大のメリットは、高効率にある。レーザそのものの電力効率は大よそ25%-30%であり、DPSSの3倍程度の高効率である。このことはドライバ・冷却系を含めた小型・軽量化に大きく寄与している。また当然ながら図4に示す通り半導体レーザの出力を直接使用するため構成が単純であることも小型化及び信頼性の観点から有利である。ここで、PIV光源として魅力ある数W以上の出力を得るためには、マルチモード・マルチエミッタの出力を合成したうえでシートビーム化する必要があるが、独自のアライメント手法とシート化光学系の開発により、5Wの高出力と十分な品質のシートビーム厚さ(≦1.5mm)を両立することができた。 波長が赤色帯(640nm)であることは従来の緑色帯レーザと比較して、目視観察の観点からはやや不利(同じパワーでは暗く見える)であるが、カメラ波長感度の観点からは各社いくらか異なるものの緑色と赤色で大差ないことが多く、PIV計測に於いては問題となっていない。

図3:ウシオのシートビームレーザ(左:レーザヘッド、右:電源ユニット)
Fig.3:Ushio Sheet beam source Laser head (left) & power supply (right)

表1:ウシオシートビームレーザの主要スペック
Table1:.Specifications of Ushio sheet beam source.

図4:DPSSシートビームとウシオ(半導体レーザ)シートビームの比較
Fig4:.Schematics of DPSS based sheet beam and diode laser based (Ushio) sheet beam

3.まとめと今後の展開

高出力半導体レーザの用途展開の一例として、流体計測(PIV)照明用のシートビームレーザを紹介した。従来のDPSSに比較し、単純な構成で小型である上に高効率な照明光源とすることができた。現在、自動車産業向けをはじめ、空調、プロセス管理等様々なご用途にご使用いただきつつある。

半導体レーザの持つ、小型・高効率、さらにはUV~IRに至る種々波長が得られるといった優れた特性は、流体計測に限らず、可視化計測、検査用途に活かせる可能性が大いにあると考えており、市場ニーズを捉えた製品を今後も開発していく所存である。

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